「あなたも将来そんなふうになるの?」
「そ、そんなのわからないさ。大体、ミオが結婚して子供産むのなんて何十年先の話だよ」
「何十年っていうほど先じゃないと思うけど」
ちょっと意地悪そうな口調で私がそう言うと、
「そんな先のこと、わかんないよねー、ミオちゃん」
とか、言いながら、夢桜の頭を撫でているパパが、すねている子供のように見えて、また顔がにやけてしまう。
――『子供を産むと女は変わる』なんてよく言うけれど、男の人だって子供が出来るとずいぶんと変わるよね。パパを見てると、ほんとにそう思う。夢桜のことになると、だんだん子供っぽくなってる気がするんだけどなぁ。
そうだ、これからは、パパの変わりっぷりの記録も残しておくことにしよう!
――パシャ!
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このカメラも、もう三年かぁ。最近では慣れて大分使いこなせている気がする。
今の最新機種だと、重さも軽くなっていたり、スマホと連携できたりするらしい……そういうのにも、ちょっと惹かれるところはあるけれど……やっぱり、このカメラは手放せない。
それでも、いずれ壊れて買い換えする時も訪れるのだろうけど、たぶん、使えなくなってもこのカメラは捨てられないんだろうなぁ、きっと。
手元のカメラを見ながら、ふとそんなことを考えていた。
明日は、夢桜の幼稚園の入園式。
また、たくさん写真を撮ることになるだろうと、メモリーカードの空き容量を増やすために、中に溜まったデータを、パソコンに移しているところだった。
データを一通りパソコンに移し終わって、整理をしようとしていたのだが、ついつい以前に撮った写真にも目が行ってしまう。
――初めて撮った夢桜の寝顔。ピンボケがひどい写真。
――夢桜がやっとハイハイできるようになった頃の写真。パパとじゃれ合っている様子がなんだか嬉しかった。
――一歳の誕生日の写真。大泣きして大変だった。
――近くの公園に夢桜とパパと三人でお散歩に行った時の写真。桜の花がとても綺麗だった。
どの写真を見ても、その時のことが鮮やかに思い浮かぶ。
その時感じていた想いまでもが、胸の内に蘇る。
たった一枚の写真。その中に切り取られた風景。止まった時間。
だけど、私にとってはどれもかけがえのない大切なもの。
どこの家庭にもあるような、代わり映えのしない、毎日繰り返されるその一瞬。
おそらく、何もなければ、日常の中で忘れ去られていくものなのだろう。
しかし、ここにある写真一枚、一枚には、その時の、その時だけのかけがえのない一瞬が、記録され留(と)め置かれている。
見れば、それだけで、その時の一瞬が思い起こされてくる。
夢桜と、パパと、過ごしてきた時間の欠片(かけら)がすべてここにある。
パズルのピースを合わせるようにつなげれば、今日この日までの記憶が鮮明に紡ぎ出される。
過去の写真を見ながら、そんな想いに耽っていたら、開いていたドアから夢桜が顔をのぞかせた。
「ママ、何してるの?」
「写真の整理をね……」
夢桜も今では、よく喋る女の子に育ってくれた。
私の話し相手にも十分なってくれる。
というか、おしゃべりさんすぎて、私の方が疲れるぐらいなんだけど……
こんなに、ちっちゃいのに、女の子はほんとにおませさんだなぁ、と思う。
「ママ、明日の入園式の準備出来てるのか?」
今度は、パパが、夢桜の後ろから顔をのぞかせた。
――もう、親子そろって、一人でおとなしくしていられないのだろうか?
などと思いながらも、ドアから重なって顔をのぞかせている二人に向かってカメラを構えた。
私がのぞくファインダー。その中にはいつも、夢桜とパパの二人が居てくれる。
これからも、こうして撮り続けていくのだろう。
私の大切なものを。
私の愛する者たちを。
そして今日もシャッターを押す。
――パシャ!