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『麻子さんのつづき』あねのほるん


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 お兄ちゃんはしれっと話を切り上げてしまい、郵送されてきた封筒から出した鍵を玄関の引き戸に差し入れた。

 
 お兄ちゃんが事故で右足を負傷したのは、桜が咲くより前のことだった。
 大きな事故で、頭も打っていた。目が覚めるまでに一週間掛かって、そこから一番負傷が酷かった足の手術やリハビリをたくさんした。私は病院で何度も泣いた。ベッドの上で朦朧とする目を見た時も、平行棒につかまって呻く声を聞いた時も。この世の何もかもが楽しめない気持ちになっていた私に、当のお兄ちゃんだけが、今日はリハビリでこれができた、今日は昨日より痛みがない、と笑顔で明るいニュースをくれていた。
退院の目途が立ったのは、もう五月も終わるかという頃。エレベーターのある社宅に引っ越しさせてもらおうか、とお父さんと相談している時、まさかの知らせが届いた。海外支社への転勤だった。
そこから暫くの間は、口を開けば「どうしよう」しか出てこなかった。うちはお父さんの会社の社宅だから出て行かなければならないし、どのみち今のお兄ちゃんに階段で六階まで上がる生活はできない。しかもお兄ちゃんは怪我のせいで会社を辞めているし、私も、お兄ちゃんの自宅療養を最優先にするためにとお父さんに頼まれ会社を辞めて、パートを探している状態。
 何から解決するべきか判らないまま、毎日病院通いと家事に加えて職探しと不動産探し。あの頃「本当に一番行くべきなのは不動産屋じゃなくて御祓いなのでは」と忙しい頭の隅でうっすら思っていた。
 その状況を、なんとなく電話してきたおじいちゃんになんとなく話したのが幸いした。
「ど田舎でええなら、家余っとるぞ」
 築百年ちょっとの一軒家を持て余していると教えてくれた。掃除に通うのが喜寿を迎えた体には辛いので、管理がてら住んでくれるなら有難いと。
 その電話でそのまま「よろしくお願いします」と話をまとめ、心晴れやかに、退院と二ヵ所への引っ越し準備に奔走する数週間を過ごした。

 
「これ、誰の家なんだっけ?」
 あちこちに視線を回しながらお兄ちゃんが言った。おっかなびっくりの私と違って遠慮も躊躇もなく靴を脱いで框に足を掛ける。

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