栞はそのでっかくて重い入浴剤の封を開けた。
微かに薔薇の香りが部屋にひろがった。
<家族が増えるんだって。透とわたしの。この間わかったんだけどね。じんせいってなに?>
栞もあの日の透のように早口で、そのことばをみえない宙に放った。
透が書いた言葉のぼろぼろのつぎはぎだらけの紙の上に雨みたいな涙が落ちた。
<こころよ では いっておいで>。
なんどもその文字を指で追った後、バスルームへと足を運んだ。
湯船の中にさらさらとパウダーを溶かした。
もわもわの湯気の中に甘酸っぱい匂いがあたりを満たしていた。