西村はグッと生ビールを飲むと、グラスをドンとテーブルに置いた。そして、俺の眼を見据えると、グイッと体を乗り出してきた。
「でさぁ~、俺はさぁ~、どんな態度でいればいい?」
突然俺の目の前に顔を近づけた西村に、俺は若干たじろいだ。西村は懇願するような眼で俺を見つめている。俺は、近づいてきた西村の顔を少し遠ざけるように、頭を後ろにそらすと、「どんな態度って…」と困惑ぎみの雰囲気で言った。
西村は、そんな俺を、しばらく無言で、懇願するように見つめる。俺は、西村の眼力に圧倒され、声が出せなかった。
しばらくして、「まあ、そんなこと言われたって困るわな…」と西村は言い放つと、自分の席に体を戻した。西村の眼力が目の前からなくなり、窮屈さから解放された俺は、若干安堵した。
「結婚するんだ。めでたいじゃないか。素直に喜べば良いんじゃないのか」
同じ娘を持つ父親として、西村の言っている意味はすでに察することができた。だが、俺は、理性的な大人として振舞うことを選び、まずは心にもない月並みなことを言ってみた。
「お前、本当に、そう思うか?」
西村は、俺の安易な発言を疑った。
俺は、ちょっと心にもなさ過ぎる発言だったかなと反省しつつも、「いや~、だっていつまでも家に居られても心配だろ」と、これまた心にもないことを言った。
西村は、俺が心にもないことを言っているのを悟ったようで、上目遣いで俺を見ながら言った。
「じゃあ、お前のところの華(はな)ちゃんが結婚するときに、素直にめでたいと思えるか?」
――痛いところを突いてきたな、と俺は思った。
「いや~、それはまだわからんが……」と、取り敢えず答えたが、俺はかっこつけて心にもないことを言ったことを後悔し始めていた。
「いや、わかるよ!絶対、お前もわかる!」
西村は声のボリュームを上げて熱く主張し始めた。
「小さい頃から手塩にかけて育てた娘だぞ~。それをどこぞの馬の骨ともわからん奴に持っていかれる。娘は結婚したいっていうから、それが娘の幸せだと思えば、仕方がないと理屈では思うが、なんていうのかな~。心はそう思ってないんだよ。いや、婿は良い奴だと思う。そう、確かに良い奴だ。さすが、俺の娘だ!あいつはしっかりした相手を選んだ!と思う。でもだな、でもだよ……俺の心は納得してないんだ、これが……」
西村は一気にまくしたてた。そして、西村の気持ちは、実は俺の気持ちそのものだった。そう、最初から俺は西村の気持ちはわかっていたのだ。理性的な大人を演じ、自分の気持ちを喋らないのは友人失格だなと思った俺は、西村に素直な気持ちを話すことにした。
「そうだな…西村の言うとおりだな…」