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『おねえちゃんごめんね』広瀬厚氏


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「だよね。うん、ユキちゃん心配してくれてありがとう」
 と小五女子は、男子と違って存外しっかりしたもんであった。胸に隠していたものを外に出してすっきりしたとみえて、このあと七海はずいぶん元気を取り戻した。だけどまだまだ不安はあった。どうやってあやまろう? どうやってあやまろう? と考えるほどに不安になった。だからあまり考えず、とにかくあやまろうと胸に話した。はやく家に帰ってあやまって、心のもやもやを綺麗さっぱり取り除きたく思った。のに、帰りの時間が近づくにつれ、それを先に引き伸ばしたくもなってきた。またまたなんとも憂鬱になってくるのだった。
 学校からの帰り道、七海は道草をしながらゆっくり歩いた。道端アスファルトをわって顔を見せる雑草を、しゃがんで眺めた。途中公園でブランコに揺られた。捨てられ転がっている空き缶を蹴飛ばした。足が積極的には前に動いてくれなかった。
 昼すぎに曇りだした空がより低く暗くなってきた。天気予報で昼から曇るとは言っていたが、雨とは言っていなかった。素直にしたがって傘を持たずに家を出た。ぽつりと空から雨のしずくが鼻のあたまに落ちた。雨? と思っているうちに、ぽつりまたぽつりと降り出した。ざあーっときそうな予感がした。しかたなしに七海は、小走りに家路を急いだ。
 それほど濡れずに家の玄関をはいることができた。ただいまの声におかえりなさいと母親が出迎えでた。
「いつもよりちょっと帰るのおそいし、急に雨降ってきたから心配してちょうど今、見に行こうと思ったところよ」
 むごんで靴をぬぎ玄関をあがる娘に続けた。
「そんなには濡れなかったみたいね。なんか朝からちょっと元気なかったみたいだけど、どうかしたの?」
「うん、えっとね…」
「えっと何? なんでもいいからお母さんに話してね」
「あっ、うん、えっと…いや、なんでもない」
「そう。それならいいけど」と、どこか不審に思いつつも、それ以上はあえて娘に聞かなかった。
 七海は二階にある自分の部屋へはいるとすぐ、ランドセルを横に置き、勉強机の引き出しを開け、ヘアピンと外れた猫の飾りとを手にとって机の上に置いた。まだ姉は帰っていない、やはり先に母親に話そうかしら、とも考えた。だけどもう何かタイミングを逃した気もする。
「ななちゃん、おやつあるから下におりてらっしゃい」母親が階段の下から呼ぶのが聞こえた。気を取り直して、
「はーい」と下に届くよう、大きな声で返事をした。ヘアピンと猫の飾りを引き出しにもどした。
 リビングのテーブルの上、シフォンケーキとオレンジジュースが用意されていた。
「わぁ、おいしそう」
「お母さん今日がんばって作ったのよ。われながら上手にできたと思うわ」
 窓の外、雨は音を立て本降りになっていた。
「おねえちゃん傘持ってったかなあ? こんなに雨降ってきて大丈夫かなあ」

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