メニュー

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ
               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

\ フォローしよう! /

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ

『昇る煙』洗い熊Q


  • 応募要項
  • 応募規定



 そう言って抱き上げられた俺の娘は、小さい両手で俺の首を抱き締めてくれた。
 その光景を見てか、周囲の母親達の警戒する視線が消えたようだった。
 まあ、普通はそうだ。誰が親なんて一目では分からない。
 ――自分の子供を抱き上げながら、ふと何時も考えてしまう。
 俺の親父は抱き上げることも。迎えに来るなんて尚更。
 一度もしてくれなかった。俺に対して。

 
 父親の会社は小学校の近くにあった。気持ち大きめの通りに出た通りに。
 コピー屋。印刷物を扱う会社。先代から親父が受け継いだ。自宅も会社から遠くない。
 三十年前位だ。バブル期入る直前か。
 老舗の工場でもないが親父の会社は早朝から稼働していたようだ。低学年の俺が朝起きる頃には、親父はもう仕事場にいた。
 集団登校。近場の子供達が朝に集まり学校へ行く。自分よりも高学年、低学年達と一緒に行く。
 学校は実家から近い、という事は親父の会社もだ。いつもの登校経路。そう、親父の会社の前を通る。
 早朝から稼働して一段落つく頃。丁度、登校時間帯だ。
 親父はいつも煙草を吸っている。あの会社の玄関脇にある特等席で。ふんぞり返りながら。
 旨そうに肺へと吸い込み、気持ち良さげに大量の煙を空へと吹き上げる。
 前を通過する小学生の集団を見ながら、子供達に別に挨拶を交わすことなく、親父は煙草を旨そうにふかしていた。
 ――そして俺もその親父に挨拶はしなかった。
 俺は親父が大分、歳食ってからの産まれた子供だった。他の子の親が二十、三十代なのだが、その頃にはもう親父は五十代近い。見た目と雰囲気から爺さん呼ばわりされても文句は言えなかった。
 自宅でも、恐らくは仕事場でも寡黙な親父。人付き合いも苦手だったんだろう。そんな男が他人の子供と挨拶なんて交わす筈もない。
 無愛想、そして煙草の煙だ。
 他の子供達も煙たく、気持ち悪いとも思っていたかも知れない。
 俺はいつも、朝は小学生の列に紛れ、気付かれないように俯きながら親父の前を通り過ぎていた。

 
「なんでパパきたの?」と娘が不思議そうに言った。
「なんでって……朝、一緒に起きてたろうが。今日はパパ、仕事休みだよ」

2/11
前のページ / 次のページ

6月期優秀作品一覧
HOME


■主催 ショートショート実行委員会
■協賛 アース製薬株式会社
■企画・運営 株式会社パシフィックボイス
■問合先 メールアドレス info@bookshorts.jp
※お電話でのお問い合わせは受け付けておりません。


1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
Copyright © Pacific Voice Inc. All Rights Reserved.
  • お問い合わせ
  • プライバシーポリシー