俺は背後から娘の両手首を取ると、目の前で軽くぱんぱんと手を合わせてやった。
「なんで手をあわせるの?」と娘が聞いてきた。
「ん? “ありがとう”て意味だよ」
「ママはおやすみなさいって言ってたよ? じいじいにって」
「……それでもあってるけど。今日はこっちが正解」
孫の顔を見せられた事で、十分に親孝行したとは思っていた。ただ心残りと言えば、俺とこの子の様に言葉を交わす事が少ない事か。
――また親父の遺影を見つめた。
一本一本の線香の煙が垂直に立ち昇り、くるりと輪を描き、紡いで渦を巻く。
それが遺影の前で立ち籠めると、まるで親父が煙草の煙を吹いているようだった。
いつものように、あの玄関脇で。
目に浮かぶその光景は、何処か誇らしげだった。