「お聞きになってらっしゃる通りですって?ええ、そう。明るいでしょう?あの部屋。いつもああなんです。姉がそうして欲しいと言うので。ええ。母が亡くなってから、庭にも白い花畑を作ったんですの。たくさん咲いているでしょう?あの花が、窓からあの部屋へ光を運ぶんです。白い壁紙、白いベッド、白いカーテン、それに姉の寝巻も私の服も白しかないの。他にあの部屋に入るのはお医者様だけですから、ね?真っ白い白衣。白いものしかあの部屋には入れないんです。だから夜だって、お月様の明かりだけで十分明るいんですの。え?ええそうです。父は仕事が忙しいですから、姉の面倒を見ながら、家のことから花の世話まで、全て私一人でやっております。いえ、もうずっとこの生活で慣れておりますから、それほど大変ということは。私、生まれてからこの街を一度も出たことがありませんし、学校へも行っていませんの。いえ、いいんですのよ?同情なさっても。それが普通の反応でしょうから。ただ、私がもう普通には当てはまらなくなってしまったというだけですの。だってこの生活が、私は楽しいんです。姉さえいてくれれば、それでいいんですの。そりゃあ痩せてしまって頬もこけていますけれど、綺麗だと思いません?彼女を。そうでしょう?光の中で、天使のようでしょう?それは姉が、天使の心を持っているからに他ならないのです。ですから私は、天使の介抱をしているということですの。いつまでもこうしているだけで、私とても幸せ。え?ああ、来週はいつもの先生がいらっしゃるのね。はい、わかりました。お気をつけてお帰りになって」
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あの花畑は、母が若くして亡くなったのを、自分がこんなにも貧弱に生まれたせいだと落ち込んでいた私の為に、妹が作ってくれたものだ。そしてそれによって、私の世界から影が奪われた。もちろん、初めてあの白い花畑を目にしたときはとてもうれしかった。許されていくような気がして、涙が出た。きっと妹には、そのときの私の涙が、何か神聖なものとして記憶に残っているのだろう。本当に、よくやってくれている。世間を何も知らない私を、同じように世間を知らない妹が世話をし、毎日手を握り、話しかけてくれる。ときどき本も読んでくれる。妹によって語られるその物語は、この真っ白な部屋へ閉じ込められ、やがて白く染まり、私たち二人だけの物語になる。一人のとき、私は目を閉じて布団をかぶる。けれど目が開いているときと、何も変わらない。もうこの部屋には光が染みついていて、暗さの居場所はない。花の形や揺れるカーテンをなぞる量の影すら残っていない。私には、妹の顔しかわからない。「お姉さんどうか私を独りにしないで」と言う、妹の悲しい顔。失うことへの恐れが、この部屋をますます明るくしていく。そうしていつか、光は私の記憶の中まで浸食し、妹の顔を消すだろう。