小説

『また会えますね』吉倉妙(『夢十夜』第一夜)

ツギクルバナー

 残業続きの仕事に嫌気がさし、三年と九ヶ月勤めた会社を辞めて、単発のアルバイトをしながら二度目の就職活動をしている僕は、最近、とある便利屋からの仕事を受けるようになった。
 きっかけは、年末年始のデパートのバイトで一緒になった女の子の、
「この前は、新婦の友人として結婚式に出席しただけで、日当一万五千円だった」という、おいしい話だった。
 しかも、その便利屋の社長というのは、ちょっと変わった方針の持ち主で、求人広告は一切出さないそうである。
だけど不思議と、ちゃんと適材適所の人材が集まってくるらしく、その社長いわく、
「これも何かの縁」とのことだった。

 確かに――。これも何かの縁だったのかな?
 デパート恒例の北海道物産展の食品売場に配属された私が、一日だけ裏方の配属となり、そこに彼がいた。
 私と彼は、ダンボールから商品を取り出し、すぐに売場へ補充できるよう準備する係。
 お客さん相手ではなかったから、合間にときどき、なんてことない話をした。
 一見、彼はどこか無機質で何事にも無関心なタイプだったのだけれど、私の便利屋の話に、意外にもとても興味を示してきた。
「その仕事って、忙しいの?」
「忙しかったら、今頃、私、ここでバイトなんてしていないでしょう」
「それもそうだね」
「でも、そういえば……」
春分の日までに、しゅっとした細身の男性が必要になりそうだって、社長が言っていたのを不意に思い出した。
だから、私は、なんとなく彼に聞いてみた。
「一度、試しにやってみる?」

1 2 3 4 5