頭が飛ぶ、野蛮な人類。
そういうストレートな軽蔑を込めて呼ばれる種族が、私たち「飛頭蛮」だ。
実に不愉快な呼び名ではあるけれど、名は体を表すとはよく言ったもので、これ以上に私たちを正しく形容する言葉などない。
「眠っているうちのことなんです」
「無意識なんです」
「悪気はなかったんです」
私たちの仲間は、誰しもそう言う。なまじ、日中は他のごく一般的な人間と変わらぬ姿形をしているから、一層始末が悪いのだ。
私たちが眠っている間、私たちの首は胴体からすうっと離れていく。音もなく、実に穏やかな曲線を描いて、宙を舞う。一晩中あちこちをふらふら飛び回ったあと、明け方になって体に帰って来る。
実害はない。誰かに悪さをしているわけではない。盗みもしないし、一生懸命生きている、のに。
「自主退職、ですか」
「うん、そう。理由は……分かるよね」
主任の言葉に、私はただ頷くしかなかった。
「これまでは見逃してきたけど……正直、今うちも首の皮一枚でなんとか繋がってるところだから」
「でも……」
「これ以上の風評被害は、困るんだよ。分かってよ」
なけなしの抵抗は、あっさりと押し切られてしまう。困った顔。嫌がる表情。蔑む目つき。もう慣れっこだけど、だからと言って平気なわけではなく、私の心はざくざくと切り刻まれていく。
そっと首筋を撫でる。目の前の主任が、あからさまにびくりと肩を震わせて、ほんの少し青ざめる。これにもまた、傷つく。