小説

『飛ばない人生』白土夏海(『飛頭蛮』)

 首の皮、ちゃんと繋がっているのになあ。今は、だけど。
「では、すぐに荷物をまとめて来ます」
「うん。一応明日で退寮手続きは進めてあるから」
「はい。ありがとうございます」
 なんでお礼なんて言っちゃってるんだろうと甚だ疑問だけど、少なくとも今晩の寝床は与えてくれるあたり、実は大いに感謝しなくてはいけないのかもしれない。
 こうやって職場を追い出されるのは、一体何度目になるだろう。疲れてしまった。

 ちなみに、私はよく、家も追い出される。最近は貸してくれるところすら少ないから、こうして住み込みの仕事をするしかなくなっている。
「もう、働きたくないなあ。」
 まずどうやら不動産業界では、私は完全にブラックリスト入りしているらしい。トラブルをよく起こす、問題のある住人。まったく酷いレッテルだ。家賃だって振り込んでいるし、騒音だって起こさないのに。
 明日からの寝床、どうしよう。ホテルは高いし、ネカフェはまずい、前はブースから私の頭が飛び出していたらしくて、目が覚めたら現場検証が始まっていたことがある。
「私だって働くのはヤダよ。でも、お金ないと生きていけないよね」
 飛頭蛮仲間の友人とこうして安酒を煽っても、現状は何も変わらない。
「明日はどうするの?ハローワーク行く?」
「うーん、結婚相談所でも行くよ」
「短絡的な……そんな簡単に男の飛頭蛮が見つからないよ」
「いやいや」
 飛頭蛮は飛頭蛮同士で結婚するのが良いと言われている。それは当たり前だ。隣で寝ている嫁さんの首が、夜な夜な宙を徘徊するなんて誰だって嫌だろう。だけど。
 

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