剛は帰宅ラッシュの満員電車から、駅のホームに押し出された。
ノー残業デーが水曜日、という企業が多いのだろうか、朝の通勤時よりも混雑が増している様だった。
人ごみに流されるまま、剛が改札を一歩出ると、日の落ちた町をイルミネーションが煌々と照らしていた。
あちらこちらの店に、クリスマスフェア、プレゼント、サンタクロースの言葉が踊っている。
十二月二十四日までは、まだ一ヵ月もあるというのに、町はすっかりクリスマスムードだ。
-遥へのクリスマスプレゼントはどうしようか。
剛は歩みを遅くして、ふと娘の遥を思い浮かべた。
遥がクマのぬいぐるみで喜んでいたのは、もうだいぶ昔のことだ。中学生になった遥とは、ろくに口も聞いていない。
妻の悠子に探ってもらうか、と剛は気楽に考えた。
イルミネーションの効果だろうか、いつもは帰宅を急いでいる人々の足取りが心なしか遅くなり、そうだ、大切な誰かにプレゼントを贈ろう、そう思った人が次々と店に吸い込まれていった。
駅前通りのちょうど真ん中に位置する広場には、毎年立派なツリーが設置される。ひときわ輝いているツリーを見上げ、剛はどきりとした。
『もみの木』という話を思い出すからだ。剛の父は、よく言ったものだ、もみの木のようになるな、と。
『もみの木』に出てくる小さなもみの木は、早く大きく、立派な木になりたいと願った。風やお日さまが今を楽しみなさい、と言っても耳を貸さずに、まだ見ぬ世界に胸を膨らませた。