小説

『もみの木』小高さりな(『もみの木』)

 長野に住む父。最後に帰ったのは、遥が小学生になる前だから、七年前か。なんだかんだ仕事が忙しい、悠子の実家に帰るからと、剛の実家に顔を出していない。
「もうお義父さんも年だし」
「なんだよ、帰るの面倒がっていたじゃないか」
「それは、自分の実家じゃないから、気を使うし、疲れるから、今までは帰ってなかったけど、やっぱり息子や孫に会いたいんじゃない? お義父さんもお義母さんも」
 剛は顔をしかめた。確かに長い間、実家に顔を出していないのはきまりが悪い。だが、いざ顔を出せば、不愉快な思いをするのは目に見えている。
 ずけずけと物を言う父が剛は苦手だった。
 お前は今会社でどのくらい出世したんだ、同期の昇進具合に比べてどうなんだ、根掘り葉掘り聞かれ、挙句の果てに、だからお前はだめなんだとの説教が始まる。
 俺の時はな、と話が始まれば、何度も聞いたことのある父の武勇伝が延々と続く。
 それでいつの間にか、お前はもみの木みたいになるな、と来るのがお決まりのパターンだ。
「まあ、考えとくよ」
「あなたから、ちゃんと連絡してよ。昼間、電話に出て、嫌味言われるのは、いつも私なんだから」
 悠子が不平がましく言った。本心はそれか、と剛は苦笑した。
「それから、遅くなるときは、連絡してよ。それか、朝言ってから行くとか」
「連絡したじゃないか」と剛が反論すると、悠子はため息をついた
「メールはね。でも、電話してくれなきゃ、気付かないわよ。もう先寝るから」
 

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