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               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

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『魔法のステッキなんかなくたって』小山ラム子

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 鏡越しに見つめ合うわたし達。相手は様々だけれど、この職場ではいつも通りの光景である。
「伸びましたね」
 毛先に目をやりながらそう言うと、真田さんもそこへと視線を向けた。
「痛んでますか?」
「そうですね。日にも焼けてるし」
「前来たのは……えっと」
「十か月ちょっと前ですね」
「あ、もうそんなになるんですね」
 そこの理由を聞きたいがぐっと我慢する。
「今日はどうしますか?」
 十か月前まではショートヘアをきれいに保つために毎月この美容室に通っていた真田さんの髪の毛は、今や肩をちょっと過ぎた辺りまで伸びていた。毎月のカットでもそこそこ量がでるくらいなので今日はさらに多くの髪の毛達が床へと旅立っていきそうだ。
「それが迷ってるんですよね」
「いつものショートではなく?」
「なんかここまで伸びたのを生かしたいというか」
「お、いいですね! 今のままじゃちょっと重いですけど、でも長さとしてならこの位も似合うと思いますよ」
「そうですか?」
「はい。かわいらしいです」
「じゃあ長さはこのくらいで整える感じでいいですか」
「分かりました! じゃあシャンプー台へどうぞ」
 真田さんが椅子から降りる。音は静かだけれど動作はゆったりという感じではない。わたしよりも年下だけど、その所作を見るともっと大人のように感じる。
「やっぱり人に洗ってもらうと気持ちいいですね」
 シャンプーをし始めてしばらくたってから真田さんがそう話しかけてきた。シャンプー中に話しかけてくるのなんて初めてだ。
「それは良かったです」
「自分ではこんな丁寧に洗わないし」
「いやいや、わたしもそうですよ。お客さんにやるときオンリーです」
「そうなんですね」
 そこで真田さんが話を一区切りにしたのでわたしも口を閉じた。わたしとしてはもう少し話したかったのだけれど。
 いつもより時間がかかったブローを終えてカットにはいる。真田さんは鏡をしげしげと見つめていた。
「この状態ですでにいつもとちがいます」
「あ、本当ですか?」
「めんどくさくていつも適当にかわかすだけなんで。朝起きたときとか爆発しててすごいですよ」
「これだけ量あると大変ですよね」
「そうですね。あとシャンプーとかのちがいもある気がする」
「今どんなのつかってるんですか?」
「なんだっけな。ドラッグストアで一番安かったやつですね」
「特にこだわりはないんですね」

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