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『魔法の国』ジョーク松山

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「ねえ鈴、あんた彼氏できた?」
「はあ?何それ」
「やっぱり姉としてはさ、年頃の妹の恋愛事情が気になるわけよ」
「んなもん、いるわけないじゃん」
「あんたさあ、幾つになったと思ってんの?」
「二十四歳だよ、悪い?ねえ、そんなことよりさあ、お姉ちゃんはどうして美容師になったの?」
「何、急にどうしたの?」
「ちょっと進路をね、迷い中」
「はあ?!え、どういうこと?あんた、まさか市役所辞める気?」
「うーん、正直、今、迷ってます」
「ええー、嘘でしょ?!だって鈴、あんたあんなに勉強してせっかく公務員になれたのに。みんな公務員になれなくて何回も試験受けてる人だっているんだよ、それを」
「うん、まあ、そうなんだけど、ねえ、何でお姉ちゃんは美容師になったの?」
「ええ?そんな、別に……なんとなく、かなあ」
「ええー。なんかさあ、ないの、ほらあ、人をきれいにしてあげたいとか、喜ばせたいとか」
「うーん、じゃあ、それで」
「はあ何それ?こっちは真剣に聞いてんのに」
「そんなことより鈴、いい加減その髪なんとかしなさい」
「だってしょうがないじゃん、自分で切れないんだもん」
「美容室に行けばいいじゃない」
「やだ」
「大体ね、そんな長い髪の女、気持ち悪がって男も寄ってこないわよ。ほんとにもう」
「じゃあさ、お姉ちゃんが切ってよ」
 と思わず語気を強めてしまい、私はすぐに後悔をする。
 また言ってしまった。毎年これの繰り返し。最後はいつも同じことを言ってお姉ちゃんを困らせてしまう。お姉ちゃんは私からすっと視線をそらすと黙って外の雨に目をやった。

 私がまだ小さい頃に両親が離婚し、私たち姉妹は母親と一緒に叔母宅に転がりこんだ。母親はすぐに他所に男を作って家に帰ってこなくなってしまい、おまけに生活費も入れないのだから私たちはその家の厄介者でしかなかった。叔母にはいつも食費がかかるから食べすぎるなとか風呂は水道代とガス代がかかるから三日に一回にしろとか(自分たちは好きな時に入っているのにだ)言われた。散髪するお金もなかったから、髪はいつも姉が切ってくれた。
 私より七つ年上だった姉は中学を卒業すると美容室で見習いとして働き始めた。お給料はとても安かったけれど、それと同時に国家資格の通信教育も始め、三年後、晴れて美容師の免許を取得した。それを機に姉と小学六年生だった私は叔母の家を出て二人暮らしを始めた。
 もちろん姉一人の給料では贅沢はできなかったけど、お風呂はいつだって入れるし、ご飯だって私たちが好きなもの作って食べることができた。
 中学を卒業した春休み、生まれて初めて美容室なるものに行った。志望校である県立高校に合格したお祝いにと、姉が職場である美容室「シャルム」で髪を切ってくれることになったからだ。これまではずっと家で姉が切ってくれていて私はそれにとても満足していたのだけど、姉はどうやら私の少し縮れた癖っ毛が気になっていたようだ。
 初めて入った美容室、というか、こういう場所に初めて来た私の胸は修学旅行で行ったディズニーランド以来高鳴っていた。
映画に出てくる洋館のような内装、ずらりと並んだ理容椅子にはお客さんが座り、きれいなお姉さんたちが髪を切ったりシャンプーをしたりしていた。初めて嗅ぐパーマ液とシャンプーの香りに圧倒された。
「いらっしゃい」
 柔らかで低い声がした。

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