沈黙が流れる。実家の居間には父親と母親と自分。何を話していいか分からない。テーブルの上にはホッピーとカルパッチョが置かれている。
「勇太、仕事はどうなの?」
母が聞いてくる。
「うん、まあまあ。」
と、自分が答える。
「・・・。」
無言の父親。決して重苦しい雰囲気ではないのだが、確実に父親と自分は何を話していいか探り合っている。そんな中、母はニコニコと呑気。つまみのカルパッチョをおいしそうに食べている。
「この魚何だっけ?」
さっき教えたのにすぐ忘れる母。
「ホウボウ。」
「そうだ、ホウボウだ。お父さんおいしいわね。」
「・・・ああ。」
ぶっきらぼうながらも返事をする父。自分が買ってきて捌いた魚を褒められるのは悪い気はしない。
「ホッピーにホウボウなんて珍しいわね。」
「バイト先で教えて貰った。」
「今、何やってるんだっけ。」
話題のためか、知っているはずなのに聞いてくる母。
「イタリアン。」
「ホウボウも捌けるし、料理出来るの?」
「まあ、少しは。」
「凄いわね。ねえお父さん。」
「・・・俳優はどうなんだ。」
こちらを見ずに聞いてくる。それはそうだ、俳優になりたくて8年前にこの家を出たのだ。
「うん、まあまあ。」
「・・・まあまあってなんだ。」
「少しは仕事貰えるようになってきてるよ。」
「・・・そうか。」
まだこちらを見ずに答える。そして父と自分は場を埋めるようにホッピーを飲む。母はマイペースにニコニコとホッピーを飲んでいる。
俳優になりたくて8年前に父親と大喧嘩をした。
「ダメだ!」
から父親の猛反対は始まった。「無理に決まってるだろ!」「何考えてんだ!」「馬鹿か!」
「才能あるわけないだろ!」「自分の顔をよく見てみろ!」「大学行け!」「じゃなきゃ就職しろ!」ありとあらゆる反対の言葉を浴びせかけられ、当時18歳の自分は頭に血が上り、「うるせえ!じじぃ!」と暴言を吐き、そのまま家出するかのように実家の福島を飛び出してしまった。そこから東京に8年、26才になるまで父親と一言も口を聞いてはいなかった。