祖父には悪いことをした。
〈孫疲れ〉をさせていたに違いない。
観覧車の前に並んでる写真を見ると、笑みの中にその影を見て取れる気がする。
祖父には癖があって、きついなとおもうと鼻の片脇にしわを寄せる。必ず左側なのである。
昔の写真だからはっきりはしないけれど、やっぱりちょっと左に寄ってるように見える。
*
幼稚園の時だよ。
〈七並べ〉でボクの番になったんだ。
〈10〉とか出したいんだけど〈9〉が置かれてないし、〈5〉も無いから〈4〉も出せない。
えーと、えーと、どこか出せるとこは・・・
小さなあたまをふりしぼって探すんだけど。
無い、どっこも出せない。
おじいちゃんのせいだ。
おじいちゃんが意地悪して札を出さないからだよ。
おじいちゃんが、グシ、おじいちゃんが、ジキュ、ボクは・・・グック、うわああああん、ああああーんぐ。
泣いちゃった、エビみたく手足をばたばたしてね。
けど、洟かんだら直ぐに治ったんで、ボクはおじいちゃんを叱ってやった。
「意地悪は禁止。したら反則負けだからね」
おじいちゃんはぽかんとしてる。わかってないのかな?
「絶交するからね」
ふふ、おじいちゃんは〈ゼッコウ〉に弱い。
この言葉を使うと、いつもオロオロして謝るんだ。ボクの切り札さ。
ところがおじいちゃんは吹き出した。
ボクを愛しそうに眺めながら、涙をぬぐうほど大笑いする。
ボクは真剣なのに、失礼しちゃうよ、まったく。
「慧(けい)や」
慧一なんだけど。
「そしたら、どうやって勝負がつくんだ?」
「意地悪した方が負けだよ」
「だけど慧なあ、勝負ってのは意地悪の仕合いだろ、相手の嫌がることをしないと勝てないんだよ」
「でも意地悪はいけませんって幼稚園の先生が」
「おまえ野球好きだよなあ」
「うん」