「四人か……」
蒲田西口商店街事務局課長の太田垣は、机に並んだ履歴書を眺めて呟いた。
この事務局に勤めて丸二十年。自身の年齢は五十を超えた。ここまで大黒柱として家族を支え、この街で暮らせているのは、ここで働かせてもらっているおかげだと思っている。
商店を営んでいるわけでもなく、蒲田出身でもない転職組の自分を拾ってくれた理事長へ、この街へ、何かお礼をと常日頃から、太田垣は考えていた。
そこで打ち出したのは『蒲田からアイドルを』という企画。
『KAMATA55』と名付け、55人からなるアイドルグループのメンバー募集をした。そんな大勢が集まるわけないと太田垣の唯一の部下である平山は人数を減らすことを提案したが、「蒲田に『ゴ』と『ゴ』つまり、『カマタゴーゴー』になるのだ。景気が良いだろ?」と太田垣は「55」に拘った。だが、応募者は四人だけだった。
太田垣は念のためといった風に再び、履歴書を数えた。
「やっぱり四人……」
「はい……」と平山が返事をした。
「……どうしましょうか?」
平山は質問ではなく、『やめますよね』と中止を含ませたつもりで尋ねた。だから、太田垣から『やめよう』とあって、残念がりながら、ため息をして『そうですね』の流れを予測していた。だが、それは外れた。
「これでやるしかないな……」
「はい? 何と仰いました?」
「全員合格!」
平山は固まった。
「……四人ですよ?」
「そうだよな。四ってのがなぁ」と太田垣は頷きながら、腕を組んだ。そして、早々に腕を解き、まだ固まっている平山の肩を叩いた。
「やるか」
それは尋ねたのではなく、『やるよね』と断定されたものであった。
「何をですか?」
「平山君が五人目になるんだよ。『KAMATA5』でカマタゴー。結構じゃないか」
太田垣は口に出しているうちに自分のアイデアも悪くないと思ったらしい。
「しかし、この四人だって、一番上が六十三歳で、一番下が六歳ってめちゃくちゃじゃないですか。他はその小学生の母親と唯一の適任な女子高生って……。半分が家族なんですよ」
平山は唾を飛ばした。
「そんな小さいことを気にしていたら、大物になれないぞ」
「大物……」
平山は別の論法で攻めることにした。