時代変われば商店街も変わる。
揚げたてコロッケのこうばしい匂いの中、買い物かごをぶら下げたお母さんたちが行き交う街――。そんなイメージの強いかつての商店街も、今や昔。
二十一世紀の商店街は、横文字の名前のバーやおしゃれなディナーを提供するレストランなどもあって、ご近所の奥さんばかりでなく今どきの若者たちも行き交える場所となっている。
都内某所にある、ここ『KOMOTO商店街』もそんな街だった。通りのそこかしこに時代の年輪的奥深さを感じさせながらも、現代の洗練された雰囲気も同時に兼ね備えた商店街。
だが、どんな時代にも時代の潮流に逆らう反逆者はいるものだ。
ここKOMOTO商店街においてそれは、商店街からほど近い場所にある小元(こもと)小学校の生徒たちだった。
アオッパナまでは垂らしていないが、昭和テイストたっぷりな小学校の少年少女たちが、まるで商店街の主であるかのように我が物顔で闊歩している。
いや、正確には闊歩ではない。
自転車で走り回っているというのが、正しい表現だった。
季節は、真夏。夏休みに入ったばかりの7月下旬。
商店街のアスファルト路面に、狂暴さ剥出しのギラギラした太陽が照りつける。
そんなものには怯む様子もない小学生男女二人が、自転車立ち漕ぎ状態でKOMOTO商店街を走り抜けていく。
年柄年中いつでも半袖半ズボン、真っ黒く日焼けした顔に白い歯がトレードマークの男子は、“マッツー”こと六年生の松村(まつむら)和(かず)希(き)。もう一人の女子は白のキュロットスカートを穿いた、見るからにアクティブな女子でツインテールのよく似合う同学年の小池(こいけ)愛(まな)美(み)である。
二人は幼い頃からの知り合い、所謂“幼なじみ”であり、この辺りではお揃いの赤い自転車でいつも行動を共にすることで有名な、やんちゃ二人組だった。
そんな二人に、商店街の横手から声を掛けた人がいる。
「こらっ! お前ら、自転車からすぐに降りるんじゃ!」
それは付近の住民から“コータローじいさん”と呼ばれる、浅井(あさい)孝太郎(こうたろう)、七十五歳だった。小柄なおじいさんで白髪のオールバックに派手な赤っぽいアロハシャツ、カーキ色のバミューダパンツを穿いたその格好は、なかなかのファンキーさを漂わせている。
「あっ、コータローだわ。マッツー、停まって!」
「ち、しかたねーな!」
慌てて漕ぐ足を止め、自転車を停めた二人。
その時の勢いで、和希の自転車の前カゴから多分勉強道具ではない何かで満載状態の青いデイバッグが飛び出した。
だがそんなこと、彼にとっては些細なことだ。