「・・・。」
私と友人の戸崎は目の前に運ばれてきた大盛りのパスタを見て一瞬言葉を失った。運んできた店長は何も言わずに店の奥に引っ込んでいった。
「俺、無理かも。」
戸崎が呟く。
「バカ、俺だって無理だよ。」
お互いパスタを見ながらなかなかフォークに手が伸びない。
「戸崎、お前が勝手に頼んだんだろ。きっちり食えよ。」
「無理だよ、半分やるよ。」
「いるわけねぇだろ。」
少し周りを見渡してみると、学校の近くだけあって学生が多い。みんな自分たちと同じくらいのボリュウムのパスタを平気な顔で食べている。私と戸崎は意を決してフォークを手にして食べ始める。そしてすぐに戸崎が根を上げた。
「無理。勘弁。」
椅子の背もたれに寄りかかる。
「全然食ってねえじゃん。残すなよ。」
「やろうか。」
「ふざけんな。」
私は食べることを早々に諦めている戸崎を無視し食べ続ける。
ここのパスタ屋に来るのは20年ぶりだった。戸崎が結婚し、そのお祝いも兼ねて蒲田に来た。パスタ屋は変わっていないが、20年ぶりの蒲田はだいぶ変わっていた。まず第一に“綺麗”になった。駅構内もそうだし、駅前の広場も。知っている店も残ってはいるが、知らない店の方が多いかもしれない。
“下町感”が溢れ、“雑多”な街。いろんな店がガチャガチャに入り乱れ立ち並んでいる。そんな蒲田は田舎から上京してきて初めて住んだ街だ。蒲田に学校があって、戸崎とはその学校で知り合い、卒業して20年たった今でも付き合いがある友達だ。学生の時によく通った大盛りのパスタ屋に行こうと言いだしたのは戸崎で、注文も勝手に戸崎がしてしまった。
「やばい、俺もきつくなってきた。」
3/2くらい食べたところで、私がギブアップ気味になった。戸崎はゆっくりだが手は動いている。
「・・・俺だってとっくにきつい。」
「残すか?」
「ダメだ。食べろ。」
「お前が勝手に注文したんだろ。」
「・・・。」