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『知らない』室市雅則


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9月期優秀作品

『知らない』室市雅則

 
 何も知らない。
 柳田は両親について何も知らなかった。

 柳田は今年三十になった。世間的には伴侶を得て、子を授かり、一家の大黒柱となっていてもおかしくない年齢である。だが、柳田は生まれてこの方、両親の世話になりっぱなしで、独り立ちできていない。
 まず実家住まいである。いや、その環境でもいくらかを納めたり、全てを自分でこなす方もいるので、一概にそれが独立していないとは言い切れない。あくまで彼の状況として認識してほしい。
 柳田は仕事をしていない。心身ともに健康であるのだが働いていない。その気がない。純粋なただ飯食いである。
 過去には全国展開をしている居酒屋で将来有望な社員としてバリバリに働いていたのだが、ある時、心と体がプツリと切れてしまって、仕事に行かなくなり、退職をした。
 すでにそれは回復しているにも関わらず、生来の怠け癖にもたれかかり、ずるずると三年を過ごした。
 柳田としては、両親からのクレームもなく、『やる気になった時で良い』と言われているから、それが沸き起こるまで現状を維持しようと思っている。

 柳田のやることといえば、寝る、食う、出す以外に、ゲームと公園で野良猫の写真を撮ることくらい。ひたすらお気楽なものであった。兄弟もいないから彼の天下。
 しかし、栄枯盛衰。盛者必衰。驕れる者久しからず。この食っちゃ寝の平穏な日々はいつまでも続くはずがない。

 それが崩れ始めた発端は、七十手前になる父の入院。
 明け方、彼が寝床に就いた頃、父が激しい腹痛を訴え、母が救急車を呼んだのだが、彼はその騒ぎに全く気付かず寝ていた。
 せめて、一言くらいかけてくれても良いとは思うのだが、母は、息子は役に立たぬと判断し、腹を抑えてもんどりを打つ夫に一人で対処した。
 そんな騒ぎはつゆ知らず、柳田は昼過ぎに目覚め、何か食おうと二階の自室から階下の台所に向かうも何も食事が用意されていなかった。
 普段であれば、焼きそばとかが用意されているので不審に思うも適当にカップ麺で済ませて、早々にゲームで遊び始めた。
 夢中になっているといつの間にか日は沈んでおり、それでも誰も帰って来ない。再び空腹を覚えるが移動するのが面倒なので、そのままゲームに没入した。

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