9月期優秀作品
『宅配の気持ち』狩屋江美
「女優になるために東京へ行かせてください!」
私は、両親に向かって土下座をした。心の中では、余裕で賛成してくれると思いながら。
しかし、両親の答えは揃って反対だった。あれだけ夢をみることは大切だとか、夢を持つことは必要だとか言ってたくせに何故?
がっかりだ。がっかりすぎる。
だったら、高校で東京の劇団に入った時に反対して欲しかった。2時間もかけて通った3年間をどうしてくれる?
「お母さんはね。女優になることに反対しているんじゃないのよ。ただ、今までずっと家から通ってきたのに高校を卒業したら、急に東京に行くってところに反対しているの」
「それは……」私はここで言葉をため息に変えた。「劇団の研究生時から正団員に上がれば、寝る暇もないほど忙しくなる」ともう何回、言っただろう。
もしかして母は、その言葉が遠回しに東京に行かないと無理だと言っていたことに気付かなかったのだろうか?いやいや、母はそんなに鈍感ではない……と思いたい。
「ねぇ、何で?研究生から正団員になって今より忙しくなるのなら、帰りの電車で寝ればいいじゃない」
……鈍感だった。またまたがっかりだ。
「大学はどうするんだ?」父が不機嫌な顔で言った。
今更?苛々してくるーっ!
「今の時代、大学ぐらい卒業しとかないと、どこにも就職できないぞ」
「女優になるのに大学は必要ないでしょ!」
「なれなかったらどうするんだ!」
「なれるわよ!研究生から正団員になれるのは、ほんの一握りなんだから、その中に入れたら、もう女優への道は開けたも同然なの!」
「じゃぁ、東京に行って名女優になるまでどうやって暮らしていくんだ?わしらの金はあてにするなよ」
父が勝ち誇った顔で嫌味ったらしく言った。
「あてになんかするわけないでしょ!劇団員はね、みんなバイト、稽古、バイトの毎日なの!残飯食べて、女優を目指すの!それにね、お母さん!この劇団は有名な演出家、脚本家、俳優さんがたーくさんいるから稽古がはんぱないの!それが週3から毎日に変わるんだよ!東京に行かなきゃやってられないでしょ?それとも、お母さんは私が無理して倒れた方がいいの?」
私の苛々が爆発した。