メニュー

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ
               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

\ フォローしよう! /

  • トップ
  • 受賞一覧
  • 映画化一覧
  • 作家インタビュー
  • 公募中プロジェクト
  • 創作プロジェクト
  • お問い合わせ

『無謀なパン屋計画』神村友


  • 応募要項
  • 応募規定

9月期優秀作品

『無謀なパン屋計画』神村友

 

 朝日が差し込む部屋で、眠りとの境で微睡むのが心地よく、もう少しだけと私は布団を抱き抱えていた。そこに、淡く甘いような香ばしい匂いが、扉の隙間をすり抜けて入ってきて、私はふんわりとした幸せな気持ちになる。
 下の階に降りると、テーブルには焼きたてのパンがずらりと並んでいた。バターロール、レーズンパン、アスパラとベーコンのパン、リンゴのパイ。父がコーヒーを飲みながらパンを頬張っていた。いつもの何気ない光景を眺めて、今日も母は元気だ、とホッとして椅子に座った。
「おはよう、優。今日はどう?」母は歩行車をコロコロと転がしながら、台所からリビングに入ってきた。
「うん、リンゴのが特に好きかも。」と言いながら、私はリンゴのパイにかぶりつく。リンゴの酸味とパンの優しい甘みがマッチして絶妙に美味しく、思わず顔がほころぶ。その様子を見て母は満足気だ。
「パパはアスパラとベーコンが好きだな。」と父はにっこりしてコーヒーを啜った。
 母は歩行車を置き、棚につかまりながらゆっくりと椅子に腰掛け、ホットミルクを両手で持ちながら、嬉しそうに朝の朝食の風景を眺めていた。
 その後「今日も頑張ってね。でも無理しないで。」と私たちを見送る母は、いつも少し寂しげな表情をしていた。

 母のパンを食べて元気をチャージした私は、満員電車に揺られて都内の職場へと向かった。勤続6年目、目標貯金額は1000万円。この目標額を達成したら、さっぱりと辞めるつもりでいる。目標まであと数十万円。先月残業が多かったので、もしかしたら目標額を達成するかもしれない。そして、今日は晴れ晴れしい給料日なのだ。
 灰色のビルが立ち並ぶ道、いつもは重い足取りだが今日は軽やかだ。少し早めに会社に着き、自分のデスクで今日客先へ提出する図面とデータを整理していると、
「沢田ちゃんおはよう。今日の準備は大丈夫そう?」と上司の佐藤が声をかけてきた。
「おはようございます。」と私は言い、指でグッドサインをした。
「よかった。あとさ、朝からごめん。来週も3件追加になっちゃったから、追加で提出資料作りお願いしていい?」佐藤は申し訳なさそうに頭を掻いている。
「…わかりました。あとで詳細内容教えてください。」
 いつもなら、溜息をついてガックリ頭を垂れるところだが、今日は違った。なんといっても目標額を達成するかもしれないのだ。上司の佐藤はいい人だが、そのいい人が裏目に出て、客先からは便利屋さんのように扱われ、関係のない仕事も引き受けてくるのだ。その後処理をするのが私なので、私は随分と振り回されていた。

 我武者羅に仕事をして、気づくと夕方になっていた。
「今月もお疲れさん。」と課長が給料明細を席に置いていく。はっと我に帰った私は、急にそわそわと落ち着かなくなった。いつもなら家に帰ってから大事に開く明細書だが、配られたのを目にして、居ても立っても居られなくなった私は、その場で開いてみた。

1/8
次のページ

9月期優秀作品一覧
HOME


■主催 ショートショート実行委員会
■協賛 アース製薬株式会社
■企画・運営 株式会社パシフィックボイス
■問合先 メールアドレス info@bookshorts.jp
※お電話でのお問い合わせは受け付けておりません。


1 2 3 4 5 6 7 8
Copyright © Pacific Voice Inc. All Rights Reserved.
  • お問い合わせ
  • プライバシーポリシー