8月期優秀作品
『カスミソウ』藤城あゆみ
「新婦の妹、橘かすみでございます。藤田家・橘家を代表して、ひと言ごあいさつを申し上げます。この度、私のお願いで、新婦の妹、高校生という身分ではありますが、親族代表のスピーチをさせていただきます。藤田家のみなさん、こんな私のわがままを聞いて下さりありがとうございます。稚拙なスピーチではありますが、お付き合い下さい。
皆様、本日はご多様中の折り、またご遠方より、新郎新婦のためにご臨席をいただきまして、まことにありがとうございました。また、ご来賓の皆様方から心温まるお言葉を多数いただきまして、心よりお礼申し上げます。皆様からの一言一句が、ふたりの胸にもしっかりと刻みこまれたことと思います。今から私の思い出話にお付き合い下さい。
私に物心がついた頃には母がいませんでした。家の庭にある、たくさんの花は生前、母が大切にしていたものだと姉はよく言っていました。どんな時でもお姉…失礼しました。姉は欠かさず、花に水やりをし、花が病気にかかったら、色んな商品を試して、治そうとしていました。虫退治も難なくこなして、そうして一所懸命育てた花を食卓に飾ってくれました。食卓の花を見て、父はよく、おかあさんがいるたいだと言っていました。食卓に育てた花を飾るのはお母さんの習慣だったみたいです。お姉…ま、いっかお姉ちゃんの育てた花はどれも本当に素敵でした。一方、私は植物もろくに育てられず、唯一育てられた植物は小学校の時の朝顔くらいです。
私が中学生の頃、今となっては忘れましたが、何かを借りようとして私はお姉ちゃんの机の中を開けました。そこにすみれが描いてあるきれいなノートをみつけました。私は思わず手にとって中を開けようとしました。その時、お姉ちゃんが部屋に入ってきて触らないでとノートを取り上げました。今までどんなことをしても怒らなかったお姉ちゃんがあんなにも怒ったのは衝撃的でした。それと同時に私はとてもショックで、それ以降、距離を置くようになってしまいました。お姉ちゃんは謝って変わらず接してくれているのに、私はむきになって、無視をしたり、時には怒ったりしたことさえ、ありました。どんどん気まずくなり、話さなくなりました。そんな状態で中学を卒業し、高校生になり、樹さんと結婚するという報告を受け、結婚式という今日という日まで、ろくに口も聞いていませんでした。
結婚するにあたって家ではお父さんと私の二人でいることが多くなりました。そんなある日、リビングからお父さんが泣いている声がしました。お父さんの手元にはすみれが描かれたあのノートがあったのです。あのノートはお姉ちゃんの日記でした。机の上に置いてあるのを見てはいけないと思いつつも父は読んでしまったみたいです。すみません、お父さんと二人で読んでしまいました。この場をお借りして謝ります。ほらお父さんも一緒に言うよ、お姉ちゃんすみませんでした。
日記にはお姉ちゃんの様々な思いが書かれていました。平気そうに見えてたけど、本当は虫が嫌いだったこと、時々手が赤かったのは殺虫剤を誤って手につけてしまっていたこと、家計を考えて進路を変えていたこと、色んなことを我慢して私達、家族を守ってくれていたことを知りました。母の代わりになろうと家族のことを一番に考えて支えてくれていたことをお姉ちゃん、今まであんな態度を取ってごめんなさい。お姉ちゃん、結婚おめでとう。母の代わりの橘ゆりではなく、藤田ゆりとして樹さんと新たな人生を歩んで下さい。今まで本当にありがとう。
皆様にはここまで、私の話に付き合って頂きありがとうございました。最後になりましたが、皆様のご健康とご繁栄をお祈り申し上げ、これをもちまして両家の挨拶とさせていただきます。本日はありがとうございました。」