それはそのとき男でも女でもなかった。ある男との結婚を自ら望んでしたくせに、三日後にはラヴェンダーの香りのする女と一緒にベッドにいた。そこに数日居座って、当たり前の顔をして夫のもとへ帰った。夫はすべてを悟っても何も言わず、それを追い出そうともしなかった。生きている間中、それは同じことを繰り返し続けた。
それは、誰か一人と共にいるということができなかった。それの心は、いつもあまり明るくない場所にあり、その少し凝り固まったような、とろみのあるような光でないと、それ独自の光合成を成り立てることができなかった。曇った、或いは色のついた空気を吸っていないと、それは生きていられない。どんな相手も一度はそれを受け入れるか、または受け入れようとしてしまうので、完全な失恋というものを、それはしたことがない。どんな恋愛のどんな結果もそれの心を傷つけることはなく、只々、何かが花火のように弾け、描かれ、美しかった。そしてそれとは逆に、それの命はいつも、たまたまの不注意のようにあっけなく散る。
‐またかい?
ため息をつきながらそう言って、その男は、男の形をした何かは、女の形をした花風病の神の隣に座った。黒とオレンジが混ざり合うバーで、花風病の神はグラスを傾けながらニヤリと笑う。
‐久しぶり。そう、まただよ。またあれは選ばれた。
グラスを置いて言うと、女は男に自分と同じものを注文した。
‐どうしてこうもしょっちゅう、選ばれてしまうんだろうなぁ。俺は、あいつ
のどろどろした恋愛人生にまた付き合わなくちゃならないのかい。
‐いいじゃない。しばらく不在だったんだから。またよろしく。楽しもう。
‐楽しむ、ね。悪いけど楽しかったことなど一度もない。わかってるだろう?
この繰り返しは、一体いつ終わるんだ。
‐終わらないでしょう。繰り返しが終わるのは、人間がいなくなったときだよ。
人間がいないなら、我々も必要ない。
‐・・・あれが、そんなにこの世に必要な人間だとは思えない。
‐何を馬鹿なことを。