女は本当に心外だというように男を見た。男は、肩を竦めて見せる。
‐だってそうじゃないか。人は恋愛をするもので、でもできるかどうかは本人
 次第。あいつがまた生まれたからって、そこで振舞われるロマンチックなん
 か世界の中じゃ砂粒にも満たないし、大して上質でもない。あれに出会わな
 ければまっとうに生きていられたっていう人間はいくらでもいた。それを見
 届けなくちゃならない俺の気持ちがわかるか?
‐そりゃ、ロマンチックから離れていた方が、君にとっては有意義だろうね。
‐わかってるならどうにかしてくれないか?
‐仕方ないじゃない。必要なんだ。どうしても。そうでしょう?君なしではあ
 れは只の色情狂に成り下がってしまう。それに「神の頼みは断れない」とい
 う掟を作ったのは私じゃない。文句があるなら向こうに言ってよ。まぁ、君
 にも私が必要なら、いつでも喜んでお手伝いするからさ。
 にっこりと笑ってみせる女を、男は鼻で笑った。
‐俺がいたって、あれは十分にただの色情狂だ。
‐やめてよ。セックスマニアとラヴシックは全くの別物なんだから。
‐同じじゃないか。浮気の実しかつかない木だ。
‐浮気じゃない。全部本気だよ。
‐ばかばかしい。
‐それは君、自分自身を否定しているのと同じだよ。
‐違うね。俺があいつをギリギリ人間にとどめてやってるってだけさ。
‐まぁ、そうだけれどね、思い出してみて。あれが、一度でも誰かを捨てたこ
 とがある?いつも、自分にできる精一杯をしている。誰かを傷つけようなん
 て思ってしたことは何もない、でしょう?
‐それは俺が見ているからだし、結果的に周りが傷ついていることはある。
‐じゃあその後のものも、君が生み出してるっていうの?色情の中にいても、
 あれはいつも、心から求めた者にしか触れようとはしないよ。だからその後
 に新しい感情が浮き上がる。新たな恋愛の鋳型が。
‐・・・・・。
 
            