小説

『made in lovesick』和織(『東京ロマンティック恋愛記』『職業婦人気質』吉行エイスケ)

 女は本当に心外だというように男を見た。男は、肩を竦めて見せる。

‐だってそうじゃないか。人は恋愛をするもので、でもできるかどうかは本人
 次第。あいつがまた生まれたからって、そこで振舞われるロマンチックなん
 か世界の中じゃ砂粒にも満たないし、大して上質でもない。あれに出会わな
 ければまっとうに生きていられたっていう人間はいくらでもいた。それを見
 届けなくちゃならない俺の気持ちがわかるか?
‐そりゃ、ロマンチックから離れていた方が、君にとっては有意義だろうね。
‐わかってるならどうにかしてくれないか?
‐仕方ないじゃない。必要なんだ。どうしても。そうでしょう?君なしではあ
 れは只の色情狂に成り下がってしまう。それに「神の頼みは断れない」とい
 う掟を作ったのは私じゃない。文句があるなら向こうに言ってよ。まぁ、君
 にも私が必要なら、いつでも喜んでお手伝いするからさ。

 にっこりと笑ってみせる女を、男は鼻で笑った。

‐俺がいたって、あれは十分にただの色情狂だ。
‐やめてよ。セックスマニアとラヴシックは全くの別物なんだから。
‐同じじゃないか。浮気の実しかつかない木だ。
‐浮気じゃない。全部本気だよ。
‐ばかばかしい。
‐それは君、自分自身を否定しているのと同じだよ。
‐違うね。俺があいつをギリギリ人間にとどめてやってるってだけさ。
‐まぁ、そうだけれどね、思い出してみて。あれが、一度でも誰かを捨てたこ
 とがある?いつも、自分にできる精一杯をしている。誰かを傷つけようなん
 て思ってしたことは何もない、でしょう?
‐それは俺が見ているからだし、結果的に周りが傷ついていることはある。
‐じゃあその後のものも、君が生み出してるっていうの?色情の中にいても、
 あれはいつも、心から求めた者にしか触れようとはしないよ。だからその後
 に新しい感情が浮き上がる。新たな恋愛の鋳型が。
‐・・・・・。

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