こんな話、信じてくれまへんやろなあ。
あれからもう何年になりますやろか。随分時間が経ったようでもあり、まるで昨日のことのようでもあり。
申し遅れました。わては大阪で和菓子屋を営んでおります、浪花屋の喜兵衛と申します。先祖から受け継いだこの店は、あんこが売りでおましてな。茶道のお師匠さん方からも茶会の時々に注文を頂戴しております。ほんまにありがたいことです。
ところでわてには、それはそれは器量のええ娘がおりました。名前をお園言いましてな。親の欲目とはいえ、器量よしはもう近所中で評判でおました。器量だけやおまへん。気立てもほんまにええ娘でしたなあ。お園に一目会いたさに、若い衆が店の前をようウロウロしておりましたなあ。
「これ、こんなとこに居られたら商売の邪魔やで。ほれほれ、どこぞに行きなはれ。ほんまに若いもんが、昼日中から何をしてはりますのや。ほれ!行きなはれ!」
私がなんぼ追いはろうても、さっぱりあきまへん。
「なあ、おまえ様。お園のことやけどなあ」
ある日のこと、女房がやってきましてな。
「けったいな虫が付いてしまう前に、どこぞかっちりしたところに嫁入りさせたほうがええのとちゃいますやろか?」
「そやけどなあ、お園はまだ十五やで。ちと早いのとちゃうか?」
当時は数え年でっさかいな、満で言うたらまだ十三ですわな。
「そやろか。まだ早いやろかなあ。そやかて、わたいがこの家に嫁入りしましたのも、十五のときでしたで。まだ何も知らんかったのんを、あんた言うたら、もう、いややわあ」
「こらこら、昼間から何を話しますのや。店のもんが笑ろてはりますで」
「へえ、すんまへん。そやけどなあ、ほら、また店の前に、にやけた男はんが来て中を覗いてはりますで。あらら、あのお人、ひょっとしてわたいに惚の字やったりして。もう、かなわんわあ」
「あほ、そないなわけないやろ」
そんな折も折り、近所の寺の住職がひょっこりやってきよりましてな。
「おーい、喜兵衛はーん。あほぼーん。おりまっか」
「おるでー。なんや生臭か。なんか用か」
「えらい挨拶やな。近所まできたさかいな。おまえとこのな、まずい饅頭でも食うたろか思うて、来てやったんやで。礼の一つも言わんかいな」
「そりゃどうもおおきに」