小説

『お園』阿礼麻亜(『葬られた秘密』)

「あんた、成仏できてへんのやな」
 実は、お園がわてらに姿を見せたのは、49日を明日に迎えようとしてた宵のことでおました。

 世の中、困ったときの生臭坊主、クソ坊主でおます。あんな頼りない坊さんでも、坊さんであることにはちがいおまへん。日頃、饅頭ばかり食うて、茶ばかりすすっとるあの坊主でも、坊主にはちがいおまへんわ。
「それは、わしの出番やな。わしが何とかして、お園の心残りを聞いてきたろ」
「そうか、やっぱり心残りか。すまんけど、よろしゅう頼むわ」
「水臭いこと言うな。それに、わしかって、あの娘が小さい時から、よう知っとるしな」
「ほんまおおきにな」
「まかしとかんかい」
 友達とは、ほんまにありがたいもんです。気持ちよく引き受けてくれましたわ。それから、わてら三人は揃ってお園の部屋までまいりました。そこで生臭が言いますのに、
「あんな、ここからはお園とわしの二人だけにしてくれへんか」
「え?なんでや」
「わかるやろ。いくら親子でも言えることと言えんことがあるんとちがうか」
「なんじゃ、親にも言えんことて」
「それは、わしもわからんわい。そやけどな、かえって他人の方が話しやすいっちゅこともあるさかいな。すまんけど、そないしてんか」
「そうか。わかった」
 わてら夫婦は後ろ髪引かれる思いで、その場を離れました。

 さて、ここからは生臭から聞いた話ですわ。
 おもむろに部屋に入ってからしばらくの間、お園の姿を見せんかったんやそうです。ここは焦ってもしかたない、と般若心経を何回か唱えたんやそうな。それでも、お園は姿を現しまへん。そこで、しょうことなしに、ごろんと寝転んで、ぼんやりと待っておったところ、箪笥の後ろからぼやーとお園が現れたんやそうです。
「お園か?久しぶりやな。わしや。そこの寺のおっちゃんやで。覚えとるやろ?」
 ひたすら話しかけたんやそうです。
「なんや?何でもおっちゃんに言うてみ。誰にも言わへんさかい、大丈夫やで」
「・・・・・」

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