小説

『白い部屋』柿沼雅美(『赤い部屋』)

ツギクルバナー

 異常な興奮を求めて集った、僕を含めて7人の普通の男たちが、わざわざ今日のために準備された白い部屋の、シルクのかけられた深い肘掛け椅子に凭れこんで、今晩の映像が何か快楽的な物語を映し出すのを、今か今かと待ち構えていた。
 7人の真ん中には、これもまだ誰にも踏まれていない白雪のような光沢のある布で覆われたひとつの大きな丸いテーブルの上に、西洋の屋敷を思わせる燭台にさされた、太いピンク色のキャンドルがゆらゆらとかすかに揺れながら燃えていた。
 部屋の四周には、窓や入り口のドアさえ残さないで、天井から床まで、純白の艶やかなカーテンがひだを作ってかけられていた。ロマンチックなキャンドルの光は、僕たちが大好きなアイドルの舐めるキャンディのように甘ったるく、影さえダサい僕たちのシルエットを映し出していた。
 好きで好きでたまらない女の子の部屋にはじめて入ったような抑えがたい高揚感と、スーパーのマシュマロの袋の中でしか出会わないような淡い色合いへの興味に、僕たちはまばたきすら忘れそうだった。
 緑系のネクタイとジャケットの高校の制服姿の僕はまだしも、冴えないスーツ姿の男や、いかにもオタクっぽいと言われるだろう男は、部屋の中でかなり浮いて見えた。
 この部屋にいる僕たちの共通点はただ、如月愛未という人物が好きというだけだ。如月愛未は、来月にデビューが決まっているタレントで、歌も歌うしCMにもでるし声優もやるらしい。僕たちはツイッターでいち早く彼女をフォローし、日々あげられる日常的なツイートと写真を見て、一日をがんばろう、いつかイベントで直接会えるまで、と言い合っていた仲だった。
 一昨日、彼女のアカウントから届いたDMには、運営さんから、デビュー前に彼女と特別に接して、どうしたらファンの気持ちを掴めるのかという企画に協力してほしい、ということだった。本人に会えるということで僕たちはお互い会ったこともないのに、何年も同じ目標を掲げて生きてきたかのようにまとまって歓喜した。
 そして集合場所につくなりワゴン車に乗せられ、この部屋に案内された。スタッフの30代らしい女性が言うには、この部屋はなかなか一般の人は入ることが許されない場所で、理想の自分になれる部屋ということだった。全員ピンときていなかったが、もしかしたら、アイドルや女優さんが写真を撮ったりするスタジオのような施設で、思い通りにかわいかったり美人だったりになれるところなのかなと考えたりした。
 僕たちが座ったままでいると、もう入り口がどこだったか思い出せないけれどどこかからその女性が入ってきて、目を閉じるように言った。一人の男が、え、何プレイこれ? などと少し嬉しそうに笑った。

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