小説

『白い部屋』柿沼雅美(『赤い部屋』)

 「え、悩み、うーん、そうだなぁ。ぶっちゃけて言うと、生きてるってことがもうそりゃもう退屈で退屈でしょうがないってことかな」
 不思議と卑屈にならずに愛未ちゅんに正直に言うことができた。家族にも友達にもちゃんと言ったことはなくて、むしろそんなの隠したいくらいなのに、愛未ちゅんには素直になれるのが不思議で、嬉しかった。
 僕は学校では普通だと思う。見るからにオタクでもなければ、真面目でもない、派手でもないし悪目立ちはしない。SNSだってアカウントを使い分けてる。友達はちゃんといるし、成績だってこのままなら推薦で大学の中堅レベルに行ける。家族も父と母と兄と犬と、なんだったら恵まれてるんだと思う。でも退屈でしかたないというのが本音だった。
 「そうなんだぁ。なにか、学校で面白いこととかはないの? 文化祭とか体育祭とかもあるでしょ? 私はお仕事が始まっちゃってからそういうの参加できることが少なくなってるから羨ましいけどなぁ」
 少し口を尖らせた愛未ちゅんを見ていると、文化祭とか体育祭がもしかしたら素晴らしい行事なのかもしれない、と一瞬心踊らせるも、いやいやそんな感じじゃなかっただろ1年のときも2年のときも、と記憶がテンションをなだめた。
 「そりゃ、こうやって愛未ちゅんに会えたりするから生きててよかった、って思うことはあるよ」
 「ほんとに? よかった、役にたてて」
 「普段はほんとに、人並みに友達と遊びに行ったりさ、マンガ読んだりとかしてるけど、何しても退屈っていうかそういうつまらなさが残るんだよなぁ。もう生まれつきのものなんじゃないかっていうくらい」
 「そうなんだぁ」
 テーブルにひじをかけてアゴをのせる愛未ちゅんの横顔が綺麗すぎると思った。
 「楽しいって思うことでも続くと慣れちゃったりさ、で、気づいたら、あぁ大したことなかった、とか思っちゃう。そんな風だからさ、ただ飯食って、学校行って、起きて、寝てばっかな日なんだよ最近」
 「そっかぁ。でもちょっと分かるなぁ。なんか、今日食べるものに困る、みたいな生活でもないと必死さって出て来ないかもしれないよね。もし、私が大金持ちだったらって考えることあるよ」
 「愛未ちゅん大金持ちだったら何するの?」
 「えっとね、すんばらしい贅沢とか、海外行ったり、やりたいゲーム全部買ったりする」
 「ゲーム会社ごと買っちゃえばいんじゃない?」

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