「ずっと傍にいてくれと、おれと一緒にこれからもこうして生きてくれと、言っただろう。おまえは頷いたじゃないか」
「あなたってば、なんて諦め悪い」
「なんだ、いま知ったのか」
女は頷いた。頷きながら、その黒い瞳でじいっと源を見つめている。
「イヤか。ダメか」
「わたしは人間になってまで、あなたに逢いに行った女ですよ」
「じゃあおあいこだろう」
遠い水面からほのかに差し込む月光に、鱗が艶めいた。美しかった。源は、その鱗に自分の鱗を擦り寄せた。ふたりともぴたりと同じ体温であった。源は広い琵琶湖のような気分だった。ゆうゆうと静かに満ちている。その上に舟を浮かべているような心持ちだ。ひとつの舟に、女とふたりで。いっそ琵琶湖に抱かれている。――そうか、ここがそうだったのか。
源はふっふっと息がくちびるから漏れ出した。ぽこぽこ、と泡沫が生まれてのぼっていた。ふくふくと笑う源に、女も同じように笑った。二匹の鮒は、いつまでもそうしていた。鮒になった源五郎という男の話である。