仕事を始めて数年経ち、コーヒーを差し出してくれる後輩も出来たことになんだか誇らしさと時の流れを感じる。屋上に続く階段を登り、キン、と冷えた重たい扉を開けた。
「綺麗」
ぽつりと呟く。あの日、カムパネルラと会えなくなった夜と同じくらい綺麗な星空だった。星のひとつひとつが宝石のようで、手を伸ばせば手が届きそうだった。ふと、懐かしい気配がした。カムパネルラが、近くにいる。彼の夢を見たばかりだからだろうか。何故だか強く彼の気配を感じた。
「カムパネルラ、いるの」
名前を呼んで周囲を探すも、カムパネルラは現れない。それなのに、今までで1番近くに、彼が居る気がした。
ふと、何かに吸い寄せられるように再び空を見る。
「……なんだ、ずっと、そこに居たんだ」
手を星空に翳してみると、彼の瞬きのように星が二、三度、瞬いた。
いつだって、星空が綺麗な夜に彼は側にいてくれた。この世界のどこにも居場所がなかった私の、唯一の居場所。私にとっての幸い。星が綺麗に見える夜のひととき。それこそが、彼だった。
カムパネルラは、星空そのものだったのだ。