小説

『鬼さんこちら』太田純平(『福は外、鬼は内』(山形県))

「これあげる」
「これなーに?」
「これはね、町内会から貰った金一封だよ」
「キンイップウ?」
「あぁ、要するにお金のことさ。節分の日に鬼をやった人に配られる報奨金――ええっと、つまり、運動会で一等賞になった時にもらえる、頑張った賞みたいなものだよ」
「わたしにくれるのぉ?」
「あぁ。今日一番頑張ってくれたからね」
 そう言ってチヨの頭を撫で、鬼はまた宴会に混じっていった。そして混じった彼がチヨのことを話題にしたのか、他の連中も次々と報奨金をチヨに渡しに来た。
「これで好きなものをお食べ」
「君の将来のために」
「パパとママには内緒だよ」
 みな鬼の仮面こそ被っているが、中身はただの優しい人間だった。
 やがて宴会が終わり、鬼たちがいなくなった。後に残されているのは飲み潰れて倒れているパパとママだけ。ママは台所で人知れずヤケ酒をしていたのだ。
 リビングにはまだ開封していないお酒や食べ物がたんまり残されている。一人で後片付けをしたり頑張っていたチヨは寝室に向かうと、戸棚の引き出しの一番下を開けた。ここには家計簿やらレシートやらお金関係のものが入っていることは幼いチヨでも知っていた。チヨはそこに貰ったお金の束をしまうと、掛け布団を担ぎながらリビングに戻った。そして寝ている両親に布団を掛けてやると、電気を消して横になり、家族三人川の字になって節分の夜を終えたのだった。

1 2 3 4 5 6