「次の方どうぞ!」
ヲタスタッフに促され、チェキ代3000円を支払い、いざ彼女の元へ。
「は、初めまして……」
彼女の前に立ち、恐る恐る視線を上げる。すると、キョトンとした表情で彼女が僕を見据えている。
「あれ? 見たこ……あ!」
「覚えてくれてます?」
彼女の表情が、困惑から一転して砕けた笑顔になった。
「あの時の! あの時はほんとにありがとう!」
その彼女の発言に、周囲のヲタ達がざわついた。
「あの~、後がつかえてますので!」
出口側のヲタスタッフが、苛立たし気に僕を急かす。
「あ、頑張って下さい! 応援してます!」
空気を察して話を区切り、僕は右手を差し出した。彼女も笑顔で微笑み返し、右手を出そうとした刹那、
「握手禁止です!」
長髪・無精髭のヲタスタッフに腕を掴まれ、僕は出口まで引っ張られた。
「規則は守ってください!」
その男は不躾にそう言うと、僕が買ったチェキを投げ渡して去っていった。そのチェキを胸ポケットにしまい、物販側に目を戻すと、彼女はファン達に笑顔で対応する事で手一杯のようだった。
彼女の中で僕はもはや過去となったのか? 現在(いま)を生きる為には、現在を見るしかない。ヲタ達の無礼な対応より、その現実が僕にはとても痛かった……。