小説

『涙の確証』加持稜誠(『竹取物語』)

 
僕は呆気に取られた。下らない茶番に狂喜する、汗と脂まみれの男達。それに笑顔で答える彼女。その流れを僕はどうしても認め切れなかった。ましてやそれに加担する事など、愚の骨頂。以前から彼女を知っている分、今のファン達と同化する事も、余計に腹立たしい。しかし、心は彼女を希求している。
複雑な胸中に僕は唾を飲み込む。
そしてオトギーズのパフォーマンスが始まった。


そこには今まで見た事のない彼女が居た。元気いっぱいにステージの上を駆け回り、会場のファン達に満面の笑みを振り撒いていた。その笑みは、僕が彼女から貰った微笑みとは別物で、もっと磨きのかかった笑顔。そしてその笑顔も嘘偽りない彼女である事を、僕は理解した。
「アイドルになったんだ……」
気が付けばまた、涙で頬が濡れていた。




 終演後、彼女達は物販ブースに移り、チェキやグッズの販売を始めた。そこに群がるドルヲタ達。瞬く間に物販ブースに人だかりが出来上がった。と同時に数人のヲタが3人の左右に付き、関係者と言わんばかりに、なだれ込むヲタ達をさばき始めた。
 僕も少し間隔を置いてその列に加わった。
 皆、彼女達に覚えて貰う為に、彼女らの名前の入ったオリジナルTシャツや、缶バッチを大量にリュックに付けたりと、血気盛んだ。スーツ姿の僕が逆に浮いて見えるくらいだ。
 そんな見るからに痛い猛者達を、嫌な顔一つせずに対応する彼女達。濡れた頬が彼女達を一層神格化させた。

1 2 3 4 5 6 7 8