そしてその日から、明かりの消えたころになるとこっそりと男が離れを出入りするようになり、二番目の娘は、ますます閉じこもるようになったのです。
それからまた何カ月か過ぎた夜のことです。月は出ていましたが寒く寂しい夜でした。久しぶりに二番目の娘がよろよろと沼のほとりに現れました。月の明かりのもと娘の姿は美しく映り、水面には魚たちが集まっています。しばらくすると魚たちが一斉に離れて行きました。穏やかだった水面が揺れ、水底から現れたのは大きな白蛇でした。娘は驚いて声を上げることも、動くこともできません。けれど、不思議と怖いとは思いませんでした。
「娘よ、願いなさい。自分のために祈りなさい。私は望まれないことはできないのだよ」
その声に弾かれたようにその場に跪き額を地面に押しつけましたが、どんなにひれ伏しても大きくなったお腹は隠しようがありませんでした。
「お、恐れ多いことでございます。水神様」
娘は白蛇が神様であることを一目見て感じ取っていたのです。そして、水神がいくら勧めても自分のために祈ろうとはしませんでした。いつの間にか妹の夫である男が訪れるのを嬉しく思うようになっていたことを恥じていたからです。どうしてわが身のために祈ることができましょう。
「私はこのままで構いません。ただできればこの子を、妹の目の届かぬところで育てとうございます」
白蛇は、ついと首を傾げました。
「そなたの望み叶えてやろう。その子は我が子とする。長者に問われたら、腹の子は水神の子だと答えなさい」
そう言って深い水底へと姿をお隠しになりました。
「娘よ、それは誰の子じゃ」
翌朝のことです。もうずいぶん二番目の娘のことなど顧みることがなくなっていた長者が、とうとうやってきました。
「この子は水神様の子でございます」
二番目の娘は額を床に押しつけ震える声で水神様に言われた通り答えました。
「たわけたことを。母屋のことでなければわからないとでも思ったか? 下男を何人も引き入れたらしいではないか。神の子であるなどと大それた噓など吐きおって」