小説

『猫ムコ入り』淡島間(『犬婿入り(日本各地)』)

「私は、一緒にいて安心できるひとと一緒にいたいの。それは別に、人でなくてもいいの。私たちのこと、色々と言ってくる人もいるけれど、私は気にしない」
 何の迷いもないマコの声。
「異類婚だから、私たちも、行くところに行かなくちゃいけなくて。もう、こっちの世界には戻ってこられないと思う。だから今日は、結婚の報告と、お別れを言いに来たの」
 マコは、しゃんと背筋を伸ばした。
「お父さん、お母さん、今までどうもありがとう」
 深々と頭を下げる娘。呆然と見つめるしかない両親。
「私、今が一番幸せ」
 夢見るような、マコの笑顔。私にはもう、娘を引きとめる術がないことを知った。
「……メグちゃんはいいのかよ、これで」
 ようやく、一言しぼり出し、傍らの妻に問う。
「……マコが、幸せならば」
 目を伏せて、妻はポツリとつぶやいた。

 妻が寝た後。
 私は一人、居間に残って、昼間のことを反芻していた。
 とるに足らないものを見るような猫の眼。理解されることを期待しないマコの言葉。
 今日、私の前に姿を表わした娘は、私の記憶の中の娘の像とは、乖離していた。どちらが本物のマコなのか、分からない。「私のマコ」は、初めからどこにもいなかったのかも知れない。それを認めるのが怖い。
だからこうして、暗い部屋で、ぼうっとしている。
 午前二時の闇は深い。人も獣も分からない。どっちだっていいのだ、これからは。

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