「子どもはどうするんだ!? 猫と結婚したところで、子どもまではできまい!」
我ながら大人げないと思うが、この際かまうものか。もうヤケクソだ。
猫は、おもむろに目を上げた。気のせいか、にやっと笑ったように見える。まるで勝ち誇るように。
なぜか、背筋に悪寒が走った。思わずひるんだ私の顔に、猫は容赦なく視線を突き立てる。獲物をしとめるまで、あと一歩、と言わんばかりに。
この不気味な猫を何とかしろ! そう訴えるつもりで、マコを見る。
マコは、深くうつむいていた。……いや、違う。見ているのだ。両手を当てた、自分の腹を。
まさか……?
「そう。四か月目なの」
脳天に、とどめの一発を食らった気がした。
「異類婚だから、処女受胎だけれど」
聞き慣れない単語に、脳がマヒする。ぼやけた視界の向こうで、マコの手に、腹に、猫が愛おし気に顔を擦りつけている。
「私も初めは驚いたの。でも、大抵の人が知らないだけで、異類婚で生まれた子も、世の中には一定数いるんだよね。ただ、周囲が認めたがらないだけで」
「と、とにかく!」
気がつけば、私はめちゃくちゃに叫んでいた。
「何が何でも、マコはやらんぞっ!」
「やるとか、やらないとか」
私の絶叫に、低い声がかぶさった。
「私はあなたの所有物じゃない」
ぎょっとして、口をつぐむ。
え……? 今の誰だ……? ……マコ?
マコは、正面から私を見据えた。白けきった瞳だった。
「お父さんは忘れてるんだろうけれど。なかったことにしてるんだろうけれど。私が学生の頃、ストーカに遭っても、盗撮されても、助けてくれなかったよね。それどころか、被害妄想だって決めつけて、信じてさえくれなかった。……お父さんはさ、自分が信じたいことしか、信じられないんだよね」
何だ? マコは何のことを言っているんだ?
混乱する意識の底で、何か、嫌なものが、ボコボコと湧き上がっていた。これまで無意識に押さえ込んでいたそれは、今、マコの口から溢れるように流れている。
「お父さんは私のこと、可愛がってくれたよね。それはありがとう。けれど、ただ可愛がるだけだった。私のこと、本当に考えてくれたかどうかってなると、微妙だよね」
マコの声が遠い。生まれた時から知っているはずの娘が、知らない他人のように思える。それは、目の前の娘が、私に、初めて見せる表情を向けているからだ。
いや、本当に初めてか? 以前にもあったような……?
「でも、もういいんだ」
ふいに、声の調子が変わった。いつもと同じ、明るく、穏やかなマコ。しかし、今の私には、この表面の明るさを、そのままに受け取ることはできない。