「何を言ってんのよ! 三年前の浮気のこと、私は忘れてないから!」
「うっっ」
私は平静を装うのが難しかった。太陽が二十に下がり、風が十五を示している。私が作る笑顔のすぐ裏には、怒りが潜んでいることだろう。私は表情筋に強く訴えた。笑うんだ、怒りの感情は争いを大きくするだけだ。妻を優しく照らし続けるのだ、と。
「君の魅力が素敵すぎて、僕はそんなこと、すっかり忘れてしまったよ」
私は努めて満面の笑みを浮かべた。太陽の数値がぐんぐんと上昇する。
ついに百を示し、風はゼロになった。
そして、それと同時に僕の頭部を強い衝撃が襲った。目の前が真っ暗になった・・・・・・
この研究所に、また一人の女性が駆け込んできました。随分と慌てた様子で、それはそれは必死の形相でした。
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。あいにく、ここはバーのような店構えですが、居抜きで使っているだけですので飲み物の類いはございません。はぁ、なるほど。ケンカの最中にニヤニヤと笑う夫が憎くて殴り殺してしまったと?」
この研究所にいくつかの事例が集まりつつあります。そこから見えてきたこと。それは、ひと時の優しさだけでは何の解決にも至らず、結局はそれまでの積み重ねが大切ということです。表面上の笑顔は、何も意味を成さないということがよく分かります。