小説

『無敵の蠅取りばあさん』サクラギコウ(『貧乏神と福の神』)

 私はお婆さんの大切なゴミを毎日1袋ずつもらって帰ることにした。週2回のゴミの日まで我が家で預かったゴミ袋を、ゴミステーションに置きに行くのは私の仕事になった。
 この調子だと夏休み中には庭にあるゴミ袋はなくなりそうだ。

 夏休みも間もなく終わる。お婆さんの家だけでなく町内の蠅もほとんど見られなくなっていた。お婆さんの家の中にはまだゴミが残っているが、意外なことに家の中のゴミはそんなに多くない。玄関前に高く積まれていたゴミは、外敵からお婆さん自信を守る城壁だったに違いない。
 まだ答えが出ていないことが一つある。やっぱりあの手紙はおおかみがぶりなのだろうか。自分で自分にだしたのだろうか。
 私は知りたかったが、お婆さんに訊くことはできなかった。
 ところが少しずつ私と話をしてくれるようになったお婆さんから手紙の真相が判明した。あの書留郵便は本当に息子さんからだった。親子の字はそっくりだったのだ。
 父の善意の解釈は正しかった。
 中に少しのお金が入っていたようだ。お婆さんは「子供に金を貰うほどまだ落ちぶれちゃいない」と強がった。
 息子さんには役所からゴミのことで連絡がいったが、そのことでもお婆さんは怒らなかった。それは息子さんからの手紙の内容にあったようだ。
「こちらに来て一緒に住まないか?」と書いてあったのだという。
「大阪へ行くの?」と私が訊くと、お婆さんは「ヤダね」と即答した。まっぴらだよ、私はここで死にたいんだと言った。
「おねえちゃん、悪いけど家の中のゴミもお願いできるかね?」
 私は一人では無理だなと思った。でも煽てられ頼りにされると「役に立ちたい」と思ってくれる父がいる。お婆さんによく似た、父がいるのだ。だからきっと、もうすぐ家の中のゴミも綺麗になる。

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