「ハチャメチャって言われたってもうちょい教えてもらわないとさ。具体的にはどんな感じでやばいの?」」
「天国は、悪魔のような奴らが善人をだましてんだ。変な薬物をばらまいていやがって、中毒者が続出だ。中毒者がさらにほかの人間をだます売人になったり、薬物を奪い合って強盗しあったり、もう地獄みたいなんだよ!」
「ふうん。で、本物の地獄は?」
老人は、鬼のように顔を真っ赤にして叫んだ。
「もっと地獄だ! 針の山地獄の前で、まじめな連中が暴力による更生は意味がないって、ハンガーストライキ始めちゃってさ。で、餓鬼地獄が大ブームになって、罪人が殺到。……鬼たちも何だか知らねえけど、感化されて人類愛に目覚めてさ、地獄閉鎖運動とか始めてェ。過激派なんかは、テロ事件も発生しているんだってんだってよ。……なんかもう収拾がつかない」
「……あァ、最悪だねェ。まあでもさ、一周回って愉しそうじゃないの、そういうノリ」
「このヤロウ、他人事みたいに!」老人は殴りかかりそうな勢いで僕を睨んだ。「誰のせいでこんな事態になってんだと思ってんだ」
「そりゃ、僕をインターンに指名した補佐殿の責任でしょうな。雇用者責任ですよ、世の理ですよ」
僕の抗弁に対し、補佐殿はぐぬぬと一度唸ってから、告げた。
「お前なんか、現世に戻れ! 二度と来るな!」
そして、またパチンと指を鳴らした。
目が覚めると、僕は病院のベッドの上だった。腕にはなんだか仰々しい管が繋げてあったし、頭はぼうっとする。
真っ白いシーツのベッド脇には、カノジョが座っていた。
「起きた!」カノジョは目を覚ました僕を見るなり、わんわんと泣き出した。「よかった! 死んだと思っちゃったんだから」
「いやあ、まあ」半分死んでいたようなもんだけどな。「心配させちゃってすまなかったなあ。死んだかと思ったよ、ほんと。臨死体験までしちゃったし」
「なに? どんな感じ?」
「なんつーか、意外に事務的で退屈だったなァ」
カノジョは深くため息を吐いた。
「……アンタなんてろくな人生を歩んでいないんだから、今死んだら、ぜったい地獄行き確定だし」
「なにを。……僕は地獄なんて落ちるつもりなどないね」
「じゃあ、天国にでも行くつもり?」
「いやァ」僕は頭をひねってから答えた。「……天国もごめんだな」