「休憩はさせてくれないのか?」
「魂なんですから、休憩も睡眠も必要なしです。さっさと進めてください」
寝ずにやるのかよ。
そもそも飽き性の気がある僕は、徐々にこの流れ作業に等しい審判がどうでもよくなってくる。
「なんだかなあ。神の裁きってのも、随分刺激が少ない仕事だね」
「たかが四百ごときで音を上げるなんて前代未聞ですよ」
僕はむっとした。
「たかがって、あんたやったことあるのかよ?」
「私は閻魔大王の補佐するのが、仕事ですので」老人はやれやれといった様子で、首を横に振る。「……裁量以上のことはできません」
「ふうん」なんだかずるい気がする。
「まあよいでしょう」老人は溜息を吐く。「十万人を裁いたら、休憩しましょう」
「十万なんてふざけんな! そこそこの地方都市くらいの人口じゃねえか」
「じゃあ、五万」
「五百」
「ううむ」
「……千でいいよ」
「千ねえ、千ねえ」老人が小さく唸る。「……ううむ、まあ、初心者ですし、いいでしょう」
「よし、わかった」
返事をした僕は、もう早く終わらせることしか考えていなかった。
一万人を裁き、十回目の休憩をして、桃の木の下でタバコを吸っている最中だった。
「大王様!」老人が目を丸くして駆けてくる。
「なんだい、補佐殿」僕は煙を吐き出す。
老人は顔が真っ赤だった。「あんた、ちゃんと魂を裁いたのか!」
「そりゃあ、まあ。妥当な範囲で」
嘘だ。
途中から、プロフィールも見ずに裁きまくっていた。というか、魂の顔さえも見ずに木槌を叩いていただけだった。唯一気にしていたのは、半分半分っていうのは変な気がするから、天国へ多めに魂を送っていたくらいだ。
「おかしいぞ!」老人は叫ぶ。「天国や地獄から苦情が殺到しているんだ。なんでこんなやつを連れてきたのかと。調べたら、あんたが裁いた奴ばっかだぞ!」
「いや、それって魂を見た目で判断しているんだよ、きっと。そういうのダメ」僕は煙草を吸い終え、携帯灰皿に入れる。「悪行にまみれた人生でも徳の高い魂を持つ人だっているし、品行方正な人生で薄汚れた魂を持つ人間もいるの。僕にはわかるのさ」
「うそをつけ。どうせろくにプロフィールも見ずに、裁きやがったんだろ!」
「なにを。補佐殿だって、魂が少なくなるって喜んでいたろうが!」
「あんた、バカか! 天国や地獄がハチャメチャになっていちゃ意味ないだろ!」