今日は何て日だ、誕生日なのに。そう思った事を。
「はーい皆さん、ご協力を有り難うございます! 大成功と言う事で、もう一度、明美に盛大な拍手を……あ、あれ? 明美??」
真っ白に燃え尽きた顔で、明美は舞台上にしおしおをへたれ込んでしまったのだった。
「お~い、明美。出て来なよ」
舞台終演後。明美は控え室として用意された部屋に、楽器達を持って閉じこもってしまった。
拓郎が何度も扉を叩いて促してみたが全く応答がない。
「悪かった、こんなサプライズをしてしまって。みんな待ってるよ。これからちゃんとした誕生日会をやるからさ」
うかがい見るが、扉向こうは静まり返ったまま。
やれやれと頭を掻きながら、ばつの悪そうな顔で拓郎はもう一度だけ明美に語った。
「……本当にゴメン。実はあの後、君にプロポーズをしようと画策した演出だったんだ。あの状況で返事をするのは卑怯だけど……だからさ、もう出て来ておくれよ。返事を聞かせて欲しいからさ」
そう語って拓郎は扉向こうに耳を傾ける。うんとかすんとか言わないかと。
すると突然――。
「――ぶひぃ~、ぶひぶひぃ~! ガル、ガルガルガルー! ニャーオ、ニャーーゴ! コケッ、コケッコッコー!!」
四匹の動物の声が響き渡った。
拓郎が思わず驚き身を引くと、扉向こうはまたシーンと静まり返っていた。
……はいなのかいいえなのか全く分からん。
音が響いてからも全くの無反応。相当怒っている思え、これ以上なに言っても仕様がなく思えた。
やれやれ明美自ら出てくるまで待つしかないと諦め、琢郎はその場を離れる。
だが、琢郎は気づいて思わず扉を振り見た。
――今、四匹同時に鳴かなかったか?
どうやって??
そう思うのもそうだが、もしかして明美が拗ねているのは“せっかく一人で四匹同時に鳴らせた”のを邪魔されたからかと。
それを確かめるにも彼女が出てこなければ分からない訳で。
この謎は二人が結婚した後も永遠と謎のままにされたのだった。