小説

『ブレーメンで告白しましょ』洗い熊Q(『ブレーメンの音楽隊』)

 明美は慌てて使う楽器達を掻き集める。だが何時もなら二人で分配しての作業。取り敢えず持つだけが精一杯。

「先ずは僕が窓枠に前足を掛けて……じゃあ次は猫さんが乗って。うん? 自分の上に犬が乗るのが許せない? 一番上は俺だろうって鶏さん、そんな尊大な言い方は良くないよ」

 ここに来て焦らし始めた~! 何て奴だ、何て性根の悪い奴なんだ。Sか? Sなのか?
 と、取り敢えず犬は左手で……右手と口で猫で……股で鶏は……おい、ロバは何処行った? 何処に逃げた!?
 いやいやロバはやっぱ手で……もうこうなったら犬は尻か? 鶏もいっそのこと口で出すか? 駄目だー口は猫の先約がある~!

「よし、準備が出来た。四匹は縦に重なり合い、胸いっぱいの息を吸い込んで声の準備。これから中の強盗達への世にも恐ろしい演奏会の始まりですー」

 遂に来た! 来やがった!!
 明美はもうてんやわんや。顔を真っ赤にして楽器を持とうと必死。自分の手と足がどっちだかと分からない程に大混乱。

「さあ、四匹が合図と共にいななきます。いち、にの、さん……」

 もう駄目だ! 駄目なのか!?
 顔の赤さも緊張も、明美の全てが頂点に達した瞬間――。

「――ぶひぃ~、ぶひぶひぃ~! ガル、ガルガルガルー! ニャーオ、ニャーーゴ! コケッ、コケッコッコー!!」

 観客の子供達が叫ぶのだった。

 ……へ? い、今の子供達??
 何が起こったのか分からず固まった明美。はっと我に返って見渡せば周囲は真っ暗。影絵のライトも消され、何時の間にか仲間達も見当たらない。
 そして舞台向こうからも水を打ったようにシーンと静まり返っているのだ。
 え、え、え? な、何かあったのか??
 不安な程の静寂。おたおたしながら明美は緞帳合間から顔を出して会場を覗き見た。

 覗いた瞬間、パッとスポットライトが照らされ明美は思わず目が眩む。そして、

「明美さん、誕生日おめでとうーー!!」

 会場から子供達の割れんばかりの拍手、歓声。何時の間にか仲間達もその中にいて拍手。
 拓郎や今日は病欠の筈の相方までいるのだ。

 明美は思い返した。一人だやると言い切った時。

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