彼女の表情は逆光でよく見えなかった。その後ろ、病室の窓ガラスは快晴の空を切り取っていた。あの日と同じ、無限に青い空。
耳鳴りが大きくなる。急速に遠のく意識の中で、彼女がなにか言うのが見えた気がした。
***
がばりと上体を起こすと、プラットホームの先端に座っていた。祭囃子が遠く聞こえるなか、まだはっきりしない頭で後ろを振り返る。12番線は真新しいフェンスで封鎖されていた。
俺は右手をひろげてみた。ドアの縁の形にあざがある。さっきのできごとは夢じゃないらしいが、それよりも、自分が今ここにいることの方がはるかに夢のようだった。それはたとえばコンマ1秒、ガラス1枚であやうく支えられている世界なのだから。
――またいつか。
またいつか、あの青さの空を見られるだろうか。すでに酔いは覚めていた。俺は立ち上がり、一歩を踏み出した。