「いいじゃんいいじゃん。でなに、タイトルは」
「え、タイトル? そうだな……ロマネスク、ですかね」
「何それ何それ、かっこいいじゃん」
酒に酔っている芥川は、もはや興味を失くしているようだが、オサムは手ごたえを感じていた。三人をモデルにした話にして、とびきり変な話にしてやろう。それから最後に、サブローに生業や生い立ちなどを聞く。するとサブローは、出身がかの有名な財閥の家系で、今は海外で働いているらしく、内容は守秘義務があって話せないのだが、政府も関わるような大きな事業に携わっているらしい。いいネタになる。オサムは嬉しくなった。オサムはもっと調査をしようと思い、酔っ払って何を話しているのか分からなくなっている芥川をよそに、席を移動して、サブローの近くによって話しかける。
「あのさ、サブロー君。特技や趣味はある?」
するとなぜかサブローはにやりと笑って、オサムに小さく耳打ちする。
「僕はねえ、嘘が特技なんですよ」
「え?」
オサムが驚いた表情でサブロー君を見ると、悪戯した子供のような表情で、
「だからね、僕の言ってること、ほとんど嘘です」
「そうなの? じゃあなに、財閥ってのは?」
「それも嘘です」
「え、じゃあなに、もしかして君……」とオサムが口をあんぐりと開けていると、サブローは会計をしてさっさと帰ってしまった。
「あれ、せっかく三兄弟揃ったのにねえ」
と、芥川が間抜けな声を上げている横で、オサムは手に持ったメモへ、いや、いいね、すごくいいよ、嘘つきのサブロー君か、と呟きながら書き込みをした。