小説

『静かな詩のような魔法』和織(『灰色の姉と桃色の妹』『シンデレラ』)

「あなた、大丈夫ですか?体、何ともない?」言いながら、女性はまじまじと功を観察し、少し大きい声でまた言った。「大丈夫?」
「え、俺?はい」
「本当に?」
「俺より、あなたじゃないですか?」
 功はもう一度彼女の手を取り、その体を引き上げた。軽くて、力が余った。立ち上がってからも、女性は不思議そうに功を見つめていた。功は恥ずかしくて、とっさに地面落ちた手袋を拾ってごまかした。
「これ」
 功がそれを手渡すと、彼女は無言で手に嵌めた。ピッタリとフィットした白い手袋が、彼女の指の細さを、余計に浮き彫りにした。
「本当に何ともないの?」
「え?」
「いえ・・・。手袋、ありがとうございました」
 彼女は頭を下げ、もう一度顔を上げ、口を動かしかけ、しかしそこから言葉が出ることはなく、振り返って行ってしまった。お姫様の後ろ姿を、功はしばらく眺めた。綺麗だが不可解で、迷いが巡る。母に訊きたいけれど、もういない。体温が上昇するのがわかった。王子様になるのか?と自分に問いかける。わからない。でも、とりあえずは、魔法使いの息子として。

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