「マジかよ・・・。」
さすがの心優しい龍人も顔が引きつっていた。それから自分が一方的に散々あの女の悪口を言って盛り上げた。龍人は必死になって悪口を言っている自分を見て笑ってくれていた。
自宅に帰りベットに横になる。
「また、何も出来なかった・・・。」
龍人に変な女が寄り付かないように監視をすることは出来ても、自分と龍人の関係を縮めることが全く出来なかった。ちょっとでもそんな素振りを見せてしまったらきっと嫌われてしまう。龍人は『あっちの人』だ。好きになってもこちらが傷つくのがオチだ。
「龍人・・・どうしてあなたは龍人なの?」
『ロミオとジュリエット』を自分にダブらせ呟く。ジュリエットがロミオの事を思い、恋しくて恋しくて思わず呟いてしまった台詞だ。本家は家柄が障害になり実らぬ恋に終わってしまったが、こちらは性別。これも結局は実らぬ恋で終わってしまうのだろうか。しかも告白もしないままに。
「龍人・・・。」
ゆっくりと目を閉じ龍人の顔を思い浮かべる。
やはりかわいい。
「・・・。」
脳裏に『告白』の二文字がちらつく。やっぱり断られるだろうか?いや、もしかしたら「いいよ。」って言ってくれるかもしれない。
「・・・好き。」
思いっきり布団を抱きしめる。かなり恥ずかしい。告白しなければずっと友達の関係としていられる、けど告白しなければそれ以上の関係は望めない。当たり前の事を当たり前のように悩む。
ただ、好きなのが同性なだけだ。
次の日に辻堂から学校で呼び出しを食らった。
「龍人君何か言ってた?」
こちらを睨みつけながら聞いてくる。
「何をって何?」
「ムカつくわね。昨日の遊園地はどうだったか聞いてんの。」
「自分で聞けよ。」
この言葉にまたしても鬼のような睨みを利かせてくる。
「あんた、なんなの?こっちは恥を忍んで嫌いな相手に聞いてんのよ。私を気に入らないのは自由だけど、龍人君が誰と恋愛しようが勝手じゃない!」
勝手ではない。
「遊びで龍人に近づくなって言ってんの。」
「遊びなんて誰が言ったのよ、勝手に決めつけないでよ。」
その言葉に一瞬たじろいだが、ここで引くわけには行かない。
「遊びに決まってるだろ、言い寄ってくる男なんて腐るほどいるだろうが。」
「意味わかんない!だからなんなの!?それと龍人君が何の関係があるのよ。偏見もいいとこ、馬鹿じゃない!」
吐き捨てるように言って、そのまま辻堂はどこかに行ってしまった。
取り残された自分はすぐにその場を立ち去れなかった。偏見、と言う言葉が心に引っかかる。偏見を嫌っていた自分が、一番偏見で人を見ていた。
辻堂と言い合いをしてから、数日が経った。辻堂は変わらずに龍人にアプローチしている。じっとサッカーをしている龍人を見ていたり、部活が終わった後は一緒に帰っているようだった。