「じゃあこっちは?」
「材料が……」
バチン! バチン! バチン! バチン!
と、花子のかんにん袋のあたりでつづけざまに四度も、張りつめた金属が弾けとんだような音がした。
「どれもこれも材料切れじゃない。いったいどれなら作れるのよ!」
「すみません、どれも作れないんです。なにせ材料がなくて……」
「まだ水しか出てきてないじゃない! こんなのパンケーキ屋さんじゃないわ、ただのお水屋さんよ!」
「ああ、もうしわけありません。でも私のせいじゃないんです」
「じゃあ誰のせいなのよ!」
「ええじつは……」とでっぷり腹のおじさんは喋りはじめた。「じつは最近、東京でいちばんの荒くれ者集団〈バッド・フラミンゴ・ファミリー〉の悪の活動が活発で、東京中の飲食店の材料という材料がすべて彼らによって強奪されてしまったのです。それはもう、根こそぎ!」
「まあなんてこと! じゃあこの店もそのバッド・フラミンゴ・ファミリーの悪の被害をうけたのね!」と花子はいった。
「そうなんです。うちも根こそぎやられました。それでもう、水しか残ってないというわけさ」
「許せないわ!」と花子は叫んだ。「バッド・フラミンゴ・ファミリーですって? そんな悪いやつらはこのわたし、トルネード畑花子がやっつけてやる!」
トルネード畑花子というのは花子のフルネームだ。トルネード畑が苗字で、花子が下の名前。本人はぜんぜん気にしていないようだけど、変な名前だなってぼくは思う。
「さあ行くわよ!」といって花子がぼくと馬の腕をひっぱった。
「なんて心強い人なんだ。ありがとうございます! バッド・フラミンゴ・ファミリーはとなり町の マルポカ・ビルという巨大なビルにいます。いま地図をかきますね」でっぷり腹のおじさんはコック帽をとり、深々と頭をさげた。
「まかせてちょーだい!」と花子はいった。
やれやれ、とぼくは思った。やれやれ、面倒くさいったらありゃしない。ぼくはポンポコサンダーと顔をみあわせて力なく笑いあった。
ぼくたちは出発した。
マルポカ・ビルにはすぐついた。
「いやあ、やっぱり馬は速いなあ」とぼくは心底感心していった。
「そうよ。馬はそんじょそこらの車なんかよりもずうっとずうっと速いのよ。ね、ポンポコサンダー」と花子がいった。
ヒヒーン、とポンポコサンダーは胸を張っていなないた。
「さあ行こう」とぼくはいった。
「ええ」と花子。