小説

『人間犬』太田純平(『人間椅子』江戸川乱歩)

「あの老犬に入っていた男――確かに――貪るようにドッグフードを食べた――きっと――満足な食事を与えられていなかったのだろう――しかし――あれは犬を眠らせる為の摂取量で――人間が摂取すると――致死量――」
 全身から血の気が引いた。
 そんな私に、毒婦が言った。
「あなたの新しい名前『レオ』ね」
 夕方のニュースが終わり、テレビはいつの間にか、音楽番組に移行していた。
「助けてくれ――助けてくれ――!」
 私の叫び声はテレビの音に掻き消され、金澤家のリビングには、誰かのアカペラで『きよしこの夜』が流れ始めた。

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